2013年12月18日水曜日

第五百六十二夜/さよならタマムシ

 遺跡巡りで立ち寄った仏塔の隅でタマムシを拾った。ほとんど瀕死の個体である。上着のポケットに入れて持ち帰る。ホテルでポケットから取り出してみる、やっと生きているという感じ。もちろんまともに歩くことなんか出来ない。小さなタッパーにネムの木の葉と一緒に入れておく。大きさはヤマトタマムシほどだが、全体的にがっちりとした感じである。さてこのタマムシ、2、3日経つとすっかり元気になってしまった、糞も良くする。元気になったものを持ち去ることはしたくない、ホテルをチェックアウトするときにホテルの庭に放した。さよなら、元気で。Photo:2013/12/18 , Bagan,Myanmar

2013年12月15日日曜日

第五百六十一夜/エダシャクの仲間

どこにいても、どこを歩いても虫が目に入ってくるのは仕方が無い。もちろん実際に虫が目に入ってくるんじゃなくて、「虫の姿が目に映る」ということだけど。熱帯と言えども乾期は虫が少ない季節。白いものがふわりと花を求めて飛んで来るとつい駆け寄ってしまう。今回は、エダシャクの仲間だった。それにしても虫が少ない。Photo:2013/12/18 @Pyin Oo Lwin, Myanmar

2013年12月13日金曜日

第五百六十夜/テナガザルと遭遇

 森を歩いていると突然、比較的近くの木立から「ホウホウ・・ホウホウ・・」と大きなかけ合いの鳴き声がした。この声は昔、ボルネオの森でも聞いたことがある。だからこれがテナガザルの声であることはすぐに判った。ただどの梢で鳴いているかが判らず、時々する声だけたよりに探す。頭上でテナガザルが枝を飛び越えて行く音で場所が判った。地上より20メートルほどの梢で2頭のテナガザルがこちらを見ていた。完全にこちらの姿は見られている。こちらを気にしながらも2頭のテナガザルは時折、森中に響く声で鳴き合っていた。1キロほど先の森からも同じ声が聞こえていたので別の個体がいるはずである。このテナガザルは、テナガザルの中では最も北西部に分布し、インド北部からミャンマーにかけて生息するフーロックテナガザル(Hoolock。テナガザルの声は、約1時間ほど続いたが午前10時30分になるとぴたりと止み。やがて居場所も判らなくなった。距離にして約25メートル、野生のテナガザルが至近の距離で見れたことはラッキーだった。残念なことにこの時は、コンパクトデジカメしか持ち合わせておらず、写真は見ての通りであるが、肉眼にしっかりと焼き付けて来た。奥の黒い個体が♂、こちらを向いて宙を飛んでいる白っぽい個体が♀。Photo:2013/12/13 @Pyin Oo Lwin, Myanmar

2013年11月15日金曜日

第五百五十九夜/意外なところにゴマダラチョウ

 今日は中学校からの親友である歯医者に行った。暖かなお天気だったので散歩して自宅まで歩いて帰った。帰り道の歩道のそばに生えている高さ45cmほどのエノキの苗木に目がいった。少ない葉のほとんどが「虫食い葉」になったいたからである。歯医者の帰り道といういわけではなく、なんとなく気になったからである。すぐにその理由が判った、ゴマダラチョウの幼虫がいたからである。人も車も多いこんな歩道のそばの、しかも小さな苗木にいるとは驚いた。さて皆さんはどこにいるか判りますか? Photo:2013/11/14 @京都市

2013年11月13日水曜日

第五百五十八夜/お口が魅力のハエ

 このハエは、いつみてもおもしろ顔をしている。愛嬌のある丸い顔の先から取って付けたように長いクチバシ状に口が延びている。ピノキオのようでも、天狗の様でもある。ハエの名は、クチナガハリバエ(Prosena siberita  アシナガヤドリバエ亜科) 、興味深いのはこの顔だけでなく、成虫が産んだ卵から孵った幼虫は、自分でコガネムシ科の幼虫を探し寄生すると言う。土中のコガネムシの幼虫をどうやって探そうというのか?なんとも不思議な能力を持っている。Photo:2013/11/12 @京都御苑、京都市

2013年11月12日火曜日

第五百五十七夜/晩秋の蛾・ミノウスバ

 晩秋に発生する蛾・ミノウスバ(Pryeria sinica Moore  マダラガ科)の産卵を見る。♀はニシキギの枝先にまとまった数の卵を産み、産卵後、尾の毛束を卵の上に貼り付ける。卵はこのまま冬を越し、春にふ化した幼虫はニシキギの新葉を食べ、6月頃に蛹になる。幼虫が多発するとニシキギの葉はほとんど食べ尽くされ、夏なのにニシキギには一枚の葉も無く枝だけになってしまう姿を度々見にする。産卵する♀の近くでは、同じ様に何頭もの♀が産卵していた。近くには交尾しているペアや、尾先を背面にそらせた特徴的なポーズをとる♂も沢山いた。今日の気温は8°C、本来なら飛ぶ個体もいるはずだが、さすがに寒いのかどれも枝先でじっとしていた。Photo:2013/11/12  @京都御苑、京都市

2013年11月5日火曜日

第五百五十六夜/キバラヘリカメムシ

 今日は、暖かく気持ちのいい秋の一日だった。今日みたいな日は、虫達もよく活動する。テングチョウ、ムラサキシジミ、オオアオイトトンボが飛び出した。クサギの葉上で日光浴をするキバラヘリカメムシ(Plinachtus bicoloripesの幼虫が下からシルエットになって見えた。隣のニシキギでも日光浴をしたり、赤い実に口吻を差し込んで汁を吸っている成虫も多数いた。本種は、成虫越冬なのでこの幼虫もあと一回の脱皮で冬を迎えるのだろう。下は日光浴をする成虫。腹部の縁の黄色と黒色のストライプがなかなかきれい。Photo: 2013/11/05 @京都御苑、京都市

2013年11月3日日曜日

第五百五十五夜/唐笠茸(からかさたけ)

いかにもキノコと言う形のカラカサタケ(Macrolepipta proceraが草地にいくつも生えていた。カラカサタケは高さが30cm以上、カサの直径が20cmにも達する大型の種で、表面の色は淡い褐色、その上に表皮が破れてできた濃褐色の鱗片が散らばる。笠の下の柄には白いツバがつき、指輪のように上下に動かすことができる。だからツバと言うよりもまるで「腹巻き」である。
 カラカサタケの肉は白色で味や匂いは殆どなく、変色も見られず、汁物、焼き物、揚げ物などで食べることが出来るが、生で食べると中毒を起こす危険性があるという。キノコは上から見るよりも見上げる方が面白い。Photo:2013/11/03 @京都御苑、京都市

2013年10月26日土曜日

第五百五十四夜/深まる秋とオオアオイトトンボ

 久しぶりにフィールドの里山に行くとオオアオイトトンボ(Lestes temporalis)を数多く見ることが出来た。大型のトンボのようにあちらこちらと飛び回らないので目立ちはしないが、よく見ると林縁や水辺の草地でフワフワと飛んでいたり、草の葉先に休んでいる。産卵を見たかったがあいにく見れなかった。イトトンボの写真を撮っていると周囲にシカの体臭を感じた。先ほどまでシカがいたに違いない、足元にもシカの新しい足跡が無数にあった。写真の個体は♀。

2013年10月12日土曜日

第五百五十三夜/自分はなに色?セスジツユムシ

 セスジツユムシ(Ducetia japonica)には緑色型と茶色型があるのだが、彼らは捕食者から身を守るために自分の体色に合わせた場所をちゃんと心得ているようだ。写真の茶色型のセスジツユムシ(♀)は草の上に落ちたクヌギの枯葉の上に止まっていた。写真を撮ろうと近づくとそれを嫌って少し動いてしまった。逃げる時も相手よりもあまり早く動くと自分の居場所を知らせてしまう、それを嫌うようにそろりそろりとゆっくり逃げるようだ。Photo:2013/10/10 @京都御苑、京都市

2013年10月10日木曜日

第五百五十二夜/不思議な色の蛹

  偶然に自然状態でのクロコノマチョウ(Melanitis phedimaの蛹を見つける。蝶の蛹を自然下で探す事は簡単なことではないが、ふとしたきっかけで見つける事はたびたびある。自分の目が意識の外で絶えず探しているのかもしれない。クロコノマチョウの蛹は、透明感のある美しい鮮やかな黄緑色で、光にすかせば翅脈だけがうっすらと浮かびあがり、体自体はゼリーのように透けてしまう感じ。多くの蝶の蛹と同様にこの蛹も硬いのだが、その質感はとても柔らかなイメージである。どことなく品のよい和菓子の様である。どうすればこのような色が生まれるのか不思議だ。Photo:2013/10/09 @京都御苑、京都市

2013年10月9日水曜日

第五百五十一夜/まちで暮らすのは大変・モンシロチョウ

 通りがかった園芸店の脇で舞うモンシロチョウ(Pieris rapae)。花も無いのに舞うにはワケがあって、この蝶は店の脇に売れ残り、ほとんどゴミ同然の放棄状態になっている野菜苗に産卵をしていた。モンシロチョウってどこにでも居ると思うのだが、街中からどんどん農地が消えていく状況下では、産卵環境にも厳しい事が判る。以前、スーパーマーケット店頭で野菜クズが入った箱の中にあるダイコン葉に産卵している母蝶を見た事がある。その時、トラック(ゴミ回収車)がやって来て作業員の方が箱を荷台に積みはじめたが、なおも母蝶は荷台に積まれた箱の周りを飛び続けていた。街中の街路樹のクスノキを食樹とするアオスジアゲハや園芸ブームで多く売られるスミレ類を食草とするツマグロヒョウモンの様に市街地で増えて来た種もあれば、モンシロチョウやキチョウの様に減ってしまった種もいる。馴染みが深い蝶ほどまちで暮らすのも大変と言う訳か。Photo:2013/10/09 @出町柳、京都市

2013年10月8日火曜日

第五百五十夜/寄生もつらいよ

 今日は、路上で不幸にも踏まれて死んだハラビロカマキリを見つける、そばには体中より出て来たと思われるハリガネムシ(2匹)も死んでいた。
 ハリガネムシは、水中で卵を産み→ふ化した線虫は草と共にバッタ(最初の寄主)などの昆虫に食べられ体内に入り込み→そのバッタを食べたカマキリ(最終的な寄主)の体内で成長→やがて大きく成長したハリガネムシは、カマキリの体より脱出し→水中に戻る→そして水中で産卵・・・と言う不思議で、かつ簡単でない、確率性の低い経路での寄生をする水生生物である。ハリガネムシは、水田などの止水域を生活の場としている。
 路上で死んだカマキリと共にどこから来たのだろうか興味深い。この近くの水場といえば鴨川か京都御苑の「トンボ池」、距離からするとトンボ池から路上までは200mほど、カマキリの能力からすると十分可能な移動距離である。つまり京都御苑の中にある水辺でもハリガネムシが生息しているという興味深いことが想像ができる。
 さてこのハリガネムシ・・・最初の寄主がカマキリに食べられるよりも他の生物、例えば野鳥やカエルやハチに食べられる方が確率が高そうである。はたしてそれらの捕食者は「寄主」にならないのか不思議である。 
 残念ながら今回のハリガネムシは路上でひからびて水辺に戻れなかったと言うわけだが、明日台風の雨が降れば、生き返って雨水溜まりで産卵となるかもしれない・・・少々怖いがそのぐらいの能力はありそうだ。Photo:2013/10/08 @京都御苑、京都市

2013年10月6日日曜日

第五百四十九夜/イソシギ

 鴨川の瀬で水際を尻を上下に振り、歩き回り水性昆虫を探すイソシギ(Actitis hypoleucosを見る。チーリーリーと細くのばす声と共に飛び出し、ああっそこに居たのか・・・と初めて気付く。長くは飛ばずにすぐに、近くの水際に下りるのだがうっかり目を放すと、どこにいるのか判らなくなってしまう。なかなか愛らしい鳥で、長く見たいのだけどすぐにどこかへ飛んで行ってしまう。Photo:2013/10/05 @鴨川、京都市

2013年10月4日金曜日

第五百四十八夜/カルガモの食事

 夕方の散歩で鴨川に行く。アオサギ、コサギの群れ、イソシギ、コガモ、トビ、カラス、セグロセキレイ、スズメの群れ、カルガモの群れ・・・を見る。なかでもカルガモ(Anas poecilorhynchaの食事は興味深かった。水辺、河原ではなく、川堤の遊歩道横の草むらでイネ科の植物の穂先につく種を食べている。ランニングの人、イヌの散歩、自転車・・・多くの人が行き交う横の草むらでである。数えてみると全部で23羽。今年、育った子どもも合わせて複数のファミリーだろう。昼間は川面で休み、夕方になると岸辺や土手上の草地に上がり、食事をする、カモが昼間よりも夜間に行動する事がよく判る。一羽だけ、ビッコをひいている個体がいた、若い個体で片足の指が中程から全て無くなっていた。Photo:2013/10/04 @鴨川、荒神口、京都市

2013年10月2日水曜日

第五百四十七夜/ハリカメムシの幼虫

 カメムシって大変に嫌われてる、しかもこの嫌われ方は「えん罪」的である。確かに腹部をつかむと臭い匂いを出すこともある。その一番嫌われる匂いを実体験した人はどのぐらいいるのだろうかと思う。僕はむしろ興味深くて面白い昆虫である・・・と思う。見ている分には嫌な匂いも出さないし、それどころか美しい。興味深いと思うのは、この虫はセミの仲間で(むしろセミがカメムシの仲間というほうが正しい)「不完全変態」(蛹の段階を持たない)である。蝶の様に蛹の前後で驚く程の様変わりがないものの、幼虫時代は、親(成虫)と色も形もけっこう違うのである。写真のカメムシは、ハリカメムシ(Cletus schmidtiの幼虫である。背中の刺と触覚の節にある扁平な膨らみが面白い。成虫の様に自由に飛ぶことが出来ないので、この形で目をごまかす様に葉っぱの先端の枯れているところにいるのだろうか。Photo:2013/10/01 @京都御苑、京都市

2013年10月1日火曜日

第五百四十六夜/水浴びをするアオサギ

 今日は、鴨川の端でお昼のサンドイッチを食べた。川を見ていると、少し離れた瀬でアオサギ(Ardea cinereaが水浴びを始めた。それは見るからに気持ちよさそうな水浴びだったので写真を撮ろうかとカメラを出したらこちらを意識しはじめた。アオサギは肉眼で見ている分にはいいのだが、双眼鏡やカメラをだすと途端に警戒心が強くなる。サンドイッチを食べて横向きながら視界の隅で観察する。すると水浴びを再会する・・・そして隙を見てカメラで撮る,この繰り返しだ。驚いた事には、アオサギが水浴びをすると体の周囲にグレーの細かな泡と汚れが水に溶け出すのだった。最初は水中で糞でもしたのかと思う程の汚れが漂った。しかし何度も見ているうちにどうもそれは糞ではなく羽の汚れの様だ。それにしても汚い。何度も水につかり、バタバタと水を浴び、クチバシで翼の羽の一枚一枚を、そして脚の指先で首筋を気持ちよさそうにかき、やがて近くの岩の上に移り体を乾かしはじめた。さらに興味深い事は、今度はコサギがまったく同じ場所に来て、同じ様に水浴びを始めた。広い川のどこでも水浴びは出来ると思うのは人間の思いで、実はサギにとって水浴びポイントと言うものがちゃんと存在するらしい。Photo:2013/10/01 @鴨川、京都市

2013年9月29日日曜日

第五百四十五夜/さよならウスバキトンボ

 夏前に南から飛来して数を増やしたウスバキトンボ(Pantala flavescensもお盆をピークに、今は少し減ってきた様に感じる。本来は亜熱帯から熱帯にかけて生息するトンボだが、成虫は移動性が強く、春から暖かくなるにつれて世代交代をしながらどんどん北を目指すトンボ。秋が深まるにつれ気温の低下で、ほとんどの地域では幼虫が越冬できず死滅する。毎年この生活を繰り返すが、いずれ都市部での冬期温暖化に伴い越冬する幼虫も出て来るかもしれない。Photo:2013/09/25 @西の湖、近江八幡市、滋賀県

2013年9月26日木曜日

第五百四十四夜/だれもが知っているどこかへ

 外に出れない日は、なんでもいいから遠くか、空を見てみたい。思いだしたのは昨日、夕空に見たサギ (Ardeidae) が塒(ねぐら)に戻る光景。U字方(V 字ではない)になってほぼまっすぐに「群れのだれもが知っているどこか」を目指して飛んでる。写真左側には群れが途切れながらも続いている。写真に写っている個体は、56羽が数えられた。鳥の群れはパッと見よりもけっこう多い。この後、同じ程の群れを2回見る。計3回である、個体数は200羽以上はいるだろう。誰がリーダーと言うワケではない。さてその群れの誰もが知っている塒の場所はどこなんだろうか。Photo;2013/09/25 @西の湖、近江八幡市

2013年9月25日水曜日

第五百四十三夜/オオルリボシヤンマの産卵行動

 谷戸の池で観察したオオルリボシヤンマ(Aeshane crenata)の産卵行動。
写真上:水面から30cm程の高さを保ち♂♀が互いを意識しながらホバリング(羽ばたきながら停止している)することしばし(見つめ合ってる?)。右が♀、左が♂で腹部の形に注目。
写真中:その後 、♀は水面に浮かぶ枯れ木に止まり、腹部を水中に入れ、腹部先端の産卵管を樹木組織内に差し込み産卵。少しずつ腹部の先端をずらしながら5分以上産卵をしていた。一ヶ所が終わっても、少し移動し再び産卵。述べ15分くらい続く。
写真下:♀が産卵をしている間、♂はそばで見守るようにホバリング。おもしろのは♂は腹部を90°下に折り曲げて飛び続けていること。まるで♀が産卵している時のような形である。しばらく見張りを続けるが、やがて近くに木に止まり休息。♀が産卵を終わり飛ぶと、どこからとも無く近寄って来る。この時は腹部はまっすぐになっている。
今日は、2ペアの産卵を確認した。オオルリボシヤンマは大型のヤンマの仲間で、その瑠璃色の斑紋が美しい。Photo:2013/09/25 @栗東、滋賀県

2013年9月23日月曜日

第五百四十二夜/クワガタを見つけると・・・

 クヌギの樹液の甘い香りが漂う。そばの木の地際にバームクーヘンの砂糖衣のような白い塊を見つける。ヒメスズメバチ、ルリタテハも来ていた。地面から頭だけ出して樹液を吸うコクワガタ(Dorcus rectusを見つける。地面を掘るとそこには♀もいた。樹液を吸っていた♂は、コクワガタにしては体長50mm近い大きなサイズ。大アゴも立派である。この夏に羽化した個体だろうかとても美しい。♂♀とももとの地面の穴に戻す。コクワガタと言えども見つけるとなんだか一日が楽しい。こればかりは子ども頃の原体験がそうさせるのか。Photo:2013/09/24 @京都御苑、京都市

第五百四十一夜/戻って来たアオバズク、大楠はなに想う

 アオバズクがオオタカに食べられたのが8月27日の朝。その後、アオバズク達は休息場所の木からすっかり姿を消してしまった。その後一度だけ夕暮れの樹冠を飛ぶ姿を見たきりどこにいるのか判らない。渡りの時期までにはしばらくある。僕たちが知らない場所で静かに夜を待っているのだろう。アオバズクの営巣木の周りにはもう写真を撮る人もやってこない。今や彼らは南への渡りに立ち寄る小鳥達に夢中なのだ。
 いつもの様に今日もアオバズクが休息に使っている木を見た・・・なんとそこにはアオバズクが2羽仲良くとまっていた。約一月ぶりの姿である。野鳥カメラマン達がいないためだろうか比較的低い位置に休んでいる。こんな時はカメラも双眼鏡も出さないのが礼儀というもの。一枚の写真よりも一本の木の上と下で同じ時間を共有することが大切。
 夜行性の彼らにとっては、これからが一番安全な時間。目をこらしていると、これから一日が始まるのかと思わせる様な体の動きが見て取れた。南への渡りまでの間、アオバズク達はこの大楠の周りを生活の場にするだろう。この大楠は今年もアオバズクや多くのムクドリの営巣の場所となり、食事の場所となった。夕暮れの中、この大楠からは周囲の樹々とは違った気配を感じる。一夏が終わり何を想うのか。Photo:2013/09/23 @京都御苑、京都市

2013年9月22日日曜日

第五百四十夜/童話の中のキノコ

 いかにもキノコと言うキノコ。童話の中で見た記憶があるのか、いやあれは赤かった、でも形は瓜二つ。童話に出て来る赤いのは「ベニテングダケ」、こちらは同じテングタケの仲間だが針葉樹の林に生えていたのでイボテングダケ(Amanita ibotengutakeのようだ。食べる事が出来そうな色と形だが、ベニテングタケよりもこちらの方が毒性が強いらしい。けっこう大きなキノコなので遠くからでも見つけられる。誰かがいたずらに蹴飛ばしたのか時折、いくつもがヒックリ返っていた。Photo:2013/09/16 @京都御苑、京都市

2013年9月20日金曜日

第五百三十九夜/公園で採れる秋の食材

 台風の大雨以降、秋のキノコにとって本格的なシーズンを向かえたようである。あちこちにキノコを見ることが出来る。モミジの幹から株で生えるこのキノコは、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea、少し食べ頃を過ぎているがこれかもどんどん根元からでてきそう。この株は、両手からたっぷりとはみ出る程の大きさ。 このキノコは、公園樹や街路樹に植えられているトウカエデや、ポプラ、ヤナギ類の枯れた部位に発生する腐朽菌。街中で採取できる食用キノコ。マツタケとは名に付くものの類縁でもないし、香りも違うが、こっちりとした食感が持ち味で和洋に限らず食材として優れている。でも御苑のものは採取できません。秋のキノコは元気だが、ツクツクボウシの鳴き声は少し頼りなげだ。Photo:2013/09/19  @京都御苑、京都市

2013年9月19日木曜日

第五百三十八夜/水が嫌いかトノサマバッタ

 ギンヤンマを観察していると近くにいたのがトノサマバッタ(Locusta migratoria。普段はこちらが動くとすぐに遠くに飛んで行ってしまうのだが、今日は違った。彼らは水っぽい場所が好きでないらしく、周りは台風の影響でびしょびしょになった畑なのでいったん飛んでも乾燥した場所に戻って来る。周りは背が高いヨシ原なので、そこに飛び込んでもよさそうだが、どうもそのような込み入った場所もお好みではないらしい。あぜ道や河原のような草地が彼らの生活の場である事がよく判る。Photo:2013/09/17 @西の湖、近江八幡市、滋賀県

2013年9月18日水曜日

第五百三十七夜/湿原に飛ぶギンヤンマ

 台風で西の湖のヨシ原が水浸しでいつも歩くところが水路とつながり、しかたなく眺めていると現れたのがギンヤンマ(Anax parthenope♂だった。湿原とタイトルに書いたが、湿原ではなく本当は畑である。 台風の大雨は収穫が終わった畑を湿原に変えてしまった。そこに縄張りをもつギンヤンマが何頭も飛んでいた。1頭が開放水面に持つ縄張りはせいぜい100m2(10m×10m)ぐらいだから、これだけの水面があればあまり縄張り争いも起こらない。飛んでいるトンボはオートフォーカスでは写せないので、マニュアルの望遠レンズ(300mm)を覗きながら、指先でピント合わせる。ほれぼれする飛びっぷりである。写真なんでどうでも良くなり、覗いているだけで時間が経つのも忘れてしまう。Photo:2013/09/17 @西の湖、近江八幡市、滋賀県

2013年9月17日火曜日

第五百三十六夜/濁流を耐える魚

 台風は去ったのだが、川は相変わらずの濁流が続いている。水位はすこし下がったものの流れの強さはさほど変わらない。山から流れ出る水にいつもながら驚く。ヌートリアなどの陸上に避難できる生きものはよいとしても魚達にとってこの増水はどうだろうか。その岸辺に魚の様子を見てみた、階段状の護岸には、沢山の小魚(ほとんどがオイカワ)が打ち上げられて死んでいた。そばにはサギの足跡が多く残っている。足跡の周りには魚があまり残っていない。きっとサギ達はこのごちそうを知っていて狙っていたのだろう。川の中を見ると打ち上げられた数をはるかに越す小魚がうじゃうじゃ泳いでいる。しかし、元気なものもタモ網があれば容易にすくえる状態、さらに傷つき、弱りふらふらになって泳いでいるものも少なくなかった。この状況からは魚と言えども台風の大水を耐えるのは容易ではない事が判る。しかも流れが直線の都市河川では、わんどや淵のような隠れ場所、避難場所も無い。川岸には、コサギとアオサギ達が胸の辺りをパンパンにふくらせて休んでいる。ずいぶんと食べたようだ。少し下流の緑地で子育てをしているコサギにとって1週間ほどは獲物に困らないだろう。
 このような増水を見ると想い出す。小学生の頃、大雨の後には必ず岸辺に魚が集まってくるを誰もが知っていて、友達と誘いあわせてタモ網を持って魚取りに出かけた。時々、カメやオオサンショウウオなんかもゲットできた。だから危ないと思いながらも魚取りに夢中になった、幸いにも誰一人として流れに落ちることはなかった。しかし子どもの耳には悲しい事故の情報が入らなかっただけで、きっとどこかで水難はあったのだろう。幸か不幸か、今ではそんな子どもの姿は無くなってしまった。Photo:2013/09/17 @鴨川、京都市

2013年9月16日月曜日

第五百三十五夜/見物人とヌートリア


 台風一過、川岸にはいつにもまして増水した鴨川を一目見ようと沢山の散歩の人・・・濁流の川面の写真を撮っている。この「物見遊山」的な行動は、のんきなことのようだが一種の本能にある「危険回避」のためのものであるらしい。(こんな流れに落ちるとヤバいぞ・・・と言う訳である)そんな川岸に数人の人が「何か」を見ていた。野次馬で行ってみると、そこには1匹のヌートリア(Myocastor coypusが草陰で昼寝中。その表情には、洪水にも余裕の感じすらある。さすがに水辺に暮らす野生動物(ただし特定外来生物)。さすがにと言えども、昨年の台風12号では一家離散してしまった・・・やはり基本的には湿地や止水が生活域であり流水域の生きものではないことが判る。見物人達からは「あれなに?」という会話がしきり、多くの人はよくテレビで見るカピバラと思っているよう。まあっ同じげっ歯目(ネズミ目)だから、長いシッポが隠れていれば判らない。Photo:2013/09/16 @荒神橋、京都市

過去のヌートリアの話題:
第三百五十七夜 2012年6月24日 
第二百四十七夜 2010年9月24日
第百八十二夜  2010年1月11日 

2013年9月13日金曜日

第五百三十四夜/その名もエゴノキタケ

 なんだかエゴノキの元気が無いなと、見上げると枝に不思議なモノを見つける。熱帯の海にあるノウサンゴの様にも、大きなカイガラムシにも見えるが、キノコである事は間違いない。早速、キノコの先生に名前を教えて頂く。エゴノキの枯れ木に好んで生える、エゴノキタケ(Daedaleopsis styracinaだった、日本固有のキノコ(カイガラタケの仲間)と言う。なんとも判りやすい名前である。このエゴノキの樹勢のなさは、このキノコが付くことが原因ではなく、エゴノキの上部には大きな木が枝葉を茂らせている。この日照条件がエゴノキには適さず、枯死にいたる。そこにやって来たのがエゴノキタケである。キノコの少し右には、ハチだろうか、カミキリムシだろうか、すでに穴を開けてしまっている。この木が完全に枯れるのは時間の問題である。枯れた木を早く土に戻し、他の植物が吸収できる養分とするためにキノコの役割がある。それまでの少しの間もさまざまな生きものの食べ物や巣として利用される。自然の生き物はすべてつながっている。僕が観たいのはその繋がりなのである。Photo:2013/09/10  @京都御苑、京都市

2013年9月12日木曜日

第五百三十三夜/謎解き・翅の巻

 少し前である、糞虫研究者のT先生からメールで一枚の写真が届いた「これは何か?」と言うものだった。ご自宅の近くに落ちていたとのこと。
 さてここから謎解きである。これは簡単だった。まず鱗粉が付いた薄い翅であるから、蝶や蛾の仲間である。次に大きさは判らないが、黒い色で赤い斑紋があると言う事は、「黒い色のアゲハチョウの仲間」である可能性が高い。よく見れば翅の下側がびりびりと破れているところに少し白い斑紋が見える。その横にはオレンジ色に黒い目玉模様。今の時期にこの特徴を持つ種は、モンキアゲハとナガサキアゲハ、いずれも大型の黒いアゲハチョウ。写真の翅の上の波打つ部分が翅縁である、この部分にオレンジ色の小さな紋、この特徴は「ナガサキアゲハの♀の後翅」、しかも翅脈の出方を見ると裏返っているようなのでこの翅は「右後翅」。つまり答えは「ナガサキアゲハの♀の右後翅」となる。
 これからはまったく想像、上が外側(翅の縁)、下が内側(体側)。翅の外側(縁部)が鳥等につつかれ破れている(生きている)個体は多く見かける。捕食者は、翅の後の目玉模様を狙ってくるのでここが破れていることは多い。しかしこの翅の様に縁部が残り体側がギザギザに破れていると言うことは、体自体をくわえられ食べる前に要らない翅をむしり取った結果と思う。一枚の翅からいろいろな情景が見えて来る。Photo:2013/09/06 @京都市

2013年9月11日水曜日

第五百三十二夜/クモを狩るハチ

 地面を忙しそうに歩き回る狩蜂の仲間、キオビベッコウ(Batozonellus annulatusこのハチはクモを見つけると背中に針を刺し麻痺させ、その後地面に巣穴を掘り、クモを落し込む。クモの体に卵を産み付けた後、巣穴をふさぐ。巣穴の中では卵からかえった幼虫が、生きた蜘蛛を食べて育つ。なんともクモにとっては、不幸中の幸か眠っている間に食べられてしまうというワケである。地面を歩き回っていたキオビベッコウは、時折立ち止まっては頭を地面に押し付けていた。きっと既にクモを狩ったあとで、巣穴を掘るのに適した場所を探しているようだった。Photo:2013/09/08 @栗東、滋賀県

2013年9月10日火曜日

第五百三十一夜/ハラビロカマキリ

 草むらでこちらの様子を伺うハラビロカマキリ(Hierodula patellifera。こちらが前を通り過ぎると、顔をこちらに向け目で追うような仕草をする。その様子からそうとうに目がよく見えているらしいことが判る。カマキリの仲間は、触覚を立てたり、ねかせたり、頭をぐるりと回したり、かしげたり、体をゆらゆらと動かしたり・・・昆虫の中では表情の豊かさはダントツだと思う。Photo:2013/09/10 @京都御苑、京都市

2013年9月9日月曜日

第五百三十夜/食痕、森の謎解き

 谷戸の先にある雑木林にて、コナラの切り株の上にカブトムシの残骸。前翅の数を数えるとちょうど3匹分、他に脚や頭もあった。全てお腹の部分が無い。前翅(堅翅)を見ると鳥のクチバシで刺したような痕跡がある。これは調理の時についた傷だろうか。森の誰かが食べた後であることは確かなようだ。近くの樹液に来ているカブトムシを獲り、この切り株の上で調理して食べたに違いない。他の切り株の上にも同じ状態の食痕があった。近くにはニホンザルのものらしき糞もあった。糞の中には木の実以外にコガネムシの緑色の翅も見える。時折、この森ではカケスを見かける。しかしサルを見たことは一度も無い。この食痕はカケスのものか、猿のものか、それとも他の動物のものか。動物達を直接見なくとも、彼らの残したメッセージは森のあらゆるところに隠されているに違いない。食痕、糞、体毛、足跡、そして体臭・・・昆虫なら小さな翅のかけら。森のなかで見つけるとなぜか嬉しくなる。小さなメッセージはパズルの一片の様なもので、これを見つけ組み立てる事でこの森の本当の姿が見えてくる。Photo:2013/09/08 @栗東、滋賀県

2013年9月8日日曜日

第五百二十九夜/樹液にやって来たオオスズメバチ

 里山の林縁のコナラ(樹液)に来ているオオスズメバチ(Vespa mandarinia。数頭が仲良く樹液を吸っている。写真を撮るために近づくが少し頭を上げ、こちらを見るだけで、樹液を吸うことに集中している。大勢で観察するとこんな事は出来ないが、一人だとハチが他方から飛来してもその羽音で気付く、樹液に来ているハチだけ注意すればいいので比較的安全。時折、互いに口移しで樹液を与えていた。このコナラの樹液に来ているのは、同じ巣の仲間だけなのでハチ同士のトラブルは起こらない。しばらく観察しているとコナラから巣に戻る飛行コースと、ここにやって来る飛行コースが違うのが興味深い。Photo:2013/09/08 @栗東市、滋賀県

2013年9月7日土曜日

第五百二十八夜/食事に向かうカブトムシ

 里山の路沿いにオオスズメバチの巣があり、頻繁にハチが出入りしていると言うので見に行った。行ってみるとそこにあったのは、ハチの巣では無く地面に近いところから樹液を出していた細いコナラだった。オオスズメバチ5頭、サトキマダラヒカゲ5頭、コクワガタ1頭、そしてカブトムシが3頭(♂2、♀1)が来ていた。念のためにスズメバチの様子を観察してみると樹液を吸ったハチは、ほぼ全て(巣のある)南の方角に飛び去るのだが、樹液にやってくる時は反対の(北側)方角からやってくる事が多かった。しかもダイレクトに樹液に到達するのではなく、近くの林縁に沿ってやって来る。なかなか興味深い。足元で何やらごそごそと音がすると、そこには今まさにカブトムシ(Trypoxylus dichotomaが樹液を求めて地面から這い出て来たばかりだった。カブトムシのシーズンもそろそろ終わりか。Photo:2013/09/07 @栗東市、滋賀県

2013年9月5日木曜日

第五百二十七夜/ムラサキツバメ蛹・続編

 先日のムラサキツバメの蛹はシャーレの底部に付いてしまったので、今回は新たに1頭の終齢幼虫を採取し、比較的自然状態と同じ環境に入れてみた。単純に食樹となる枝葉を立て、その下にいろいろな葉を敷き入れた。すると十分にマテバシイの葉を食べた終齢幼虫は半分枯れた葉に止り、そこで幼虫が作るのと同じ様に糸で葉を所々紡ぎ、筒状の巣を作り中で前蛹(上が頭)となった。前蛹となってもまだアリ達(キイロシリアゲアリ/フタフシアリ亜科)は幼虫が出す分泌液を求めて離れようとしない。幼虫だけでなくアリも同様に持ち帰り、その行動を見ることも大切。この幼虫は2日後に蛹に脱皮するだろう。おそらく自然状態でも同じ事が行われている。これでは屋外で蛹を見つけようにも見つからないはずである。Photo:2013/09/05 @京都市

2013年9月4日水曜日

第五百二十六夜/リボンを付けたイチモンジセセリ

 強雨が断続的に降った、風もふいた、落雷もあった。そんななか蝶達はどうしているのかなと見てみると、雨の合間に花にやって来ていた。そんな中、1頭のイチモンジセセリ(Parnara guttataをみつけた。頭にてっぺんにちょこんとのせた花粉の冠がなかなか似合っている。写真の個体は♀、花粉はムクゲ。Photo:2013/09/04 @京都市

2013年9月3日火曜日

第五百二十五夜/生還したヒラタクワガタ

 クワガタムシがやって来た・・・写真はヒラタクワガタ(Dorcus titanusの♂。彼が僕のところに初めてやって来たのは、7月23日、友人が子ども達のために獲って来たが余ったのでとのことだ。そして2日後、彼は飼育容器のなかで死んでしまった。死んだ時にあるように体の節部、脚も触覚もくたくたに延び、半ば硬直状態になっている。大アゴや脚をいじってもなんの反応もない。暑さのためか、かわいそうな事をした。半日ほどそのままにしておいたがやはりダメだった。
 そこで標本として残そうと考えた。汚れた体をアルコールで拭き、標本づくりに取りかかった。一般的に標本なら背中に針をさすが、僕はこの針が嫌いなので、針を刺さずにマチ針を使って展足(てんそく=脚を左右均等に揃えること)だけする。スタイロフォームの上にばっちりと展足し、大アゴも触覚もきれいに整え、そして乾燥のために涼しい場所に置いておいた。ところが朝起きてみるとマチ針がクワガタの形に並び、クワガタだけがこつ然と姿を消した。彼は完全に死んでいたのだから消えるはずが無かった。しかしクワガタが生返り、マチ針をすり抜け逃げたと思い込むより他無かった。まったく不思議だった。
 ところが友人がくれたのは、このクワガタだけではなかった、子ども達に人気のなかったカブトムシの雌も3頭いた。カブトムシは採卵をしようと飼育している。今日、そのカブトムシの飼育ケースの外側に1頭のクワガタが張り付いていた、ケースの中の手作り樹液の匂いに魅かれてやって来たらしい・・・さてどこから来たの? 
 つまみ上げると、見覚えのある個体だった。一月前にあの展足台から消えた彼だ。彼のここまでの旅を想像してみた。 
 深夜、彼は自由に動けない体に違和感を得た。幸いにも展足台が置かれた場所が風通しの良い場所で、しかも体を貫通する標本針が使われていなかった。蘇生した彼はマチ針の手かせ足かせを解き、本が積み重なった渓谷を彷徨い、電化製品のケーブル林を越え、家具下のホコリ原をくぐり、ようやく階段のところまでやって来た。ここでかすかに漂う樹液の香りを敏感な触覚が察知した。香りの中にはカブトムシの気配もする。ここからは楽だった、香りをたよりにグランドキャニオン階段を落ちる様に下り、カブトムシのところに辿り着いた。彼の体にはホコリがカビのようにまとわり付き、一月以上飲まず食わずで室内の隅々を徘徊していたことを物語る。まったく不思議である。自然の生き物の生命力に驚いた。Photo:2013/09/03 @京都市

2013年9月2日月曜日

第五百二十四夜/尾状突起

 蝶の後翅の一部に突出した部位を「尾状突起」と呼ぶ。例えばアゲハチョウの後翅に延びるあれである。その尾状突起はシジミチョウにも多い。もちろん翅縁がつるんとした尾状突起を持たない種もいる。ベニシジミ(Lycaena phlaeasもこの突起はあまり発達しない、ただし今日観たベニシジミは、尾状突起とまでは言わないまでも「角状突起」程度は言える突起があった。近くにいた別のベニシジミは、ここまで突起が発達していなかったから、この出っ張りはこの個体の形態的個性と言えそうだ。Photo:2013/09/02 @守山、滋賀県

2013年9月1日日曜日

第五百二十三夜/やむなく飼育、ムラサキツバメの蛹

 野外で昆虫の羽化のシーンを観察しようとしてもなかなか骨が折れる作業である。小さなシジミチョウともなると気が遠くなる、居所が判ってもまずタイミングが合わない・・・そこでどうするかと言えば、まず屋外で幼虫を探し、飼育し、蛹にして、羽化を待つのである。今回はムラサキツバメ(Narathura bazalus シジミチョウ科)の羽化シーンを見ようと思い、先日近くのフィールドから幼虫を1匹持ち帰った(写真上、背中にアリが集まっている、幼虫の下に見える2つの白点はふ化したあとの卵)。幼虫は元気に食樹(マテバシイ)の葉を食し、ようやく蛹に脱皮(蛹化)した。ムラサキツバメは蛹化する時に枝葉から地面近くに降り、樹皮や枯葉の中で蛹になる。同様に今回は飼育容器の底角で蛹化してしまった。仕方なく枯葉の上に移して写真を撮る。実際を知っている者にとって極めて不自然な蛹である。蛹は体長15mm、体幅7mm、体高5mmの「新ジャガ」のような体色である。蛹期は多分10〜12日程度、9月12日頃を羽化日と予想、体色の変化に注意すれば羽化を見逃す事は無い。楽しみである。もちろん成虫になればもとの場所に返す。きっとそこにも羽化したての個体が飛んでいるはずである。フィールドでの観察が大切であるが、飼育することでいくつかの興味深い事を発見することも出来る。Photo:2013/09/01 @黒谷、京都市

2013年8月31日土曜日

第五百二十二夜/生き残ることの大変さ

 写真を整理していたらアオバズク(Ninox scutulata フクロウの1種)の羽の散乱シーンを思いだした。忘れていた訳ではないが、その時は結構ショックであまり見たくなかったからである。鳥が補食された痕跡はいくども見ているのでさほどのショックは無いが、ここのところアオバズクが狙われるケースが少なくないからである。狙う相手は、痕跡からおそらくオオタカであることは間違いない。アオバズクは個体数の少ない鳥である、にも関わらず、補食されるケースが割合として多いと言う事は、昼間は枝に止まり休むアオバズクはオオタカにとって捕らえやすい獲物なのか、それともアオバズクを補食すること、居場所を覚えた個体がいるのだろうか。いずれにしてもこの貴重なフクロウの1種を狙わず個体数の多いドバトや他の野鳥を捕らえたらよいと思うのだが(多分、日常的な獲物はドバトだろうが・・・)、これは人間の勝手な言い分であって、野生生物である以上、自分にとってコストがかからない獲物を狙うのが一番合理的である。他の小鳥や小動物を狩るアオバズクと言えども生き延びる事はたやすくないのである。合掌。Photo:2013/06/11 @京都御苑、京都市

2013年8月30日金曜日

第五百二十一夜/草間に潜むアオメアブ

草葉に止り近くを獲物を通るのを待っているアオメアブ(Cophinopoda chinensis写真の個体は♂。金緑色から緑色に輝く大きな複眼、長い足、筋肉質の胸部・・・なかなかきれいな肉食性のアブ。名前の「アオメ」は複眼の色を表すが、角度によって緑から銅色まで複雑に変化する。草の葉上で待ち伏せし、昆虫を捕らえて体液を吸い、けっこう大きな獲物も捕らえてる。脚のとげとげは飛びながら獲物を確実に抱え込むのに役立ち、細い草葉に止まる時も上手く使っている、これはトンボやキリギリスと同じ。Photo:2013/08/29 @京都御苑、京都市

2013年8月29日木曜日

第五百二十夜/労働寄生をする小さなハチ

 腹部を赤いインクビンにつけた様な体色のハチがいた。唐辛子の様でもある。単純ながらも不思議な色分けである。これは初めて見る種類。体長15mm程、一所に止まらず花の蜜を忙しく吸っているのですぐに見失ってしまった。でも特徴的な体色だけはなんとか写真に収めることが出来た。早速、調べるとハラアカヤドリハキリバチ(Euaspis basalisと判った。このハチ、ハキリバチ科のオオハキリバチに労働寄生すると書かれている。聞き慣れない「労働寄生」とは、「宿主の体から直接栄養を得るのではなく、宿主が餌として確保したものを餌として得るなど、宿主の労働を搾取する形の行動を取ることを指す。盗み寄生とも言う。」とあった。しかしながら疑問は残る、今日見たハチは自分でちゃんと花の蜜を求め得ているではないか・・・。このハチの仲間=ハキリバチはその名から想像できる様に植物の葉を切り取り、それを竹筒などの穴に運び入れ、卵を産むための部屋を作り、そこに花粉を運び入れ卵を産みつける。だからこのハチの労働寄生とは、宿主=オオハキリバチが竹筒に運び入れた巣材と花粉の部屋に忍び入り、自分なりのアレンジを行い卵を産みつけると言うものらしい。つまり鳥の託卵にも似ている。巣も作らない、幼虫の餌も集めない・・・だけど他のハチが準備した産卵場所にちゃっかり潜り込み、自分の卵を産み付ける。これだけなら彼らは何もせず楽して産卵しているようだが、実際は「宿主=オオハキリバチ」の行動をちゃんと把握することに全てが懸かっている。宿主の行動が全てを左右する、これも決して楽ではない。なかなか上手くしたものである。やはり昆虫の世界はまったく不思議である。・・・が人間界での労働寄生ももちろんある、これを古くから「ひも」と呼ぶ。花はイヌコウジュ(シソ科)。Photo:2013/08/29 @京都御苑