2013年9月29日日曜日

第五百四十五夜/さよならウスバキトンボ

 夏前に南から飛来して数を増やしたウスバキトンボ(Pantala flavescensもお盆をピークに、今は少し減ってきた様に感じる。本来は亜熱帯から熱帯にかけて生息するトンボだが、成虫は移動性が強く、春から暖かくなるにつれて世代交代をしながらどんどん北を目指すトンボ。秋が深まるにつれ気温の低下で、ほとんどの地域では幼虫が越冬できず死滅する。毎年この生活を繰り返すが、いずれ都市部での冬期温暖化に伴い越冬する幼虫も出て来るかもしれない。Photo:2013/09/25 @西の湖、近江八幡市、滋賀県

2013年9月26日木曜日

第五百四十四夜/だれもが知っているどこかへ

 外に出れない日は、なんでもいいから遠くか、空を見てみたい。思いだしたのは昨日、夕空に見たサギ (Ardeidae) が塒(ねぐら)に戻る光景。U字方(V 字ではない)になってほぼまっすぐに「群れのだれもが知っているどこか」を目指して飛んでる。写真左側には群れが途切れながらも続いている。写真に写っている個体は、56羽が数えられた。鳥の群れはパッと見よりもけっこう多い。この後、同じ程の群れを2回見る。計3回である、個体数は200羽以上はいるだろう。誰がリーダーと言うワケではない。さてその群れの誰もが知っている塒の場所はどこなんだろうか。Photo;2013/09/25 @西の湖、近江八幡市

2013年9月25日水曜日

第五百四十三夜/オオルリボシヤンマの産卵行動

 谷戸の池で観察したオオルリボシヤンマ(Aeshane crenata)の産卵行動。
写真上:水面から30cm程の高さを保ち♂♀が互いを意識しながらホバリング(羽ばたきながら停止している)することしばし(見つめ合ってる?)。右が♀、左が♂で腹部の形に注目。
写真中:その後 、♀は水面に浮かぶ枯れ木に止まり、腹部を水中に入れ、腹部先端の産卵管を樹木組織内に差し込み産卵。少しずつ腹部の先端をずらしながら5分以上産卵をしていた。一ヶ所が終わっても、少し移動し再び産卵。述べ15分くらい続く。
写真下:♀が産卵をしている間、♂はそばで見守るようにホバリング。おもしろのは♂は腹部を90°下に折り曲げて飛び続けていること。まるで♀が産卵している時のような形である。しばらく見張りを続けるが、やがて近くに木に止まり休息。♀が産卵を終わり飛ぶと、どこからとも無く近寄って来る。この時は腹部はまっすぐになっている。
今日は、2ペアの産卵を確認した。オオルリボシヤンマは大型のヤンマの仲間で、その瑠璃色の斑紋が美しい。Photo:2013/09/25 @栗東、滋賀県

2013年9月23日月曜日

第五百四十二夜/クワガタを見つけると・・・

 クヌギの樹液の甘い香りが漂う。そばの木の地際にバームクーヘンの砂糖衣のような白い塊を見つける。ヒメスズメバチ、ルリタテハも来ていた。地面から頭だけ出して樹液を吸うコクワガタ(Dorcus rectusを見つける。地面を掘るとそこには♀もいた。樹液を吸っていた♂は、コクワガタにしては体長50mm近い大きなサイズ。大アゴも立派である。この夏に羽化した個体だろうかとても美しい。♂♀とももとの地面の穴に戻す。コクワガタと言えども見つけるとなんだか一日が楽しい。こればかりは子ども頃の原体験がそうさせるのか。Photo:2013/09/24 @京都御苑、京都市

第五百四十一夜/戻って来たアオバズク、大楠はなに想う

 アオバズクがオオタカに食べられたのが8月27日の朝。その後、アオバズク達は休息場所の木からすっかり姿を消してしまった。その後一度だけ夕暮れの樹冠を飛ぶ姿を見たきりどこにいるのか判らない。渡りの時期までにはしばらくある。僕たちが知らない場所で静かに夜を待っているのだろう。アオバズクの営巣木の周りにはもう写真を撮る人もやってこない。今や彼らは南への渡りに立ち寄る小鳥達に夢中なのだ。
 いつもの様に今日もアオバズクが休息に使っている木を見た・・・なんとそこにはアオバズクが2羽仲良くとまっていた。約一月ぶりの姿である。野鳥カメラマン達がいないためだろうか比較的低い位置に休んでいる。こんな時はカメラも双眼鏡も出さないのが礼儀というもの。一枚の写真よりも一本の木の上と下で同じ時間を共有することが大切。
 夜行性の彼らにとっては、これからが一番安全な時間。目をこらしていると、これから一日が始まるのかと思わせる様な体の動きが見て取れた。南への渡りまでの間、アオバズク達はこの大楠の周りを生活の場にするだろう。この大楠は今年もアオバズクや多くのムクドリの営巣の場所となり、食事の場所となった。夕暮れの中、この大楠からは周囲の樹々とは違った気配を感じる。一夏が終わり何を想うのか。Photo:2013/09/23 @京都御苑、京都市

2013年9月22日日曜日

第五百四十夜/童話の中のキノコ

 いかにもキノコと言うキノコ。童話の中で見た記憶があるのか、いやあれは赤かった、でも形は瓜二つ。童話に出て来る赤いのは「ベニテングダケ」、こちらは同じテングタケの仲間だが針葉樹の林に生えていたのでイボテングダケ(Amanita ibotengutakeのようだ。食べる事が出来そうな色と形だが、ベニテングタケよりもこちらの方が毒性が強いらしい。けっこう大きなキノコなので遠くからでも見つけられる。誰かがいたずらに蹴飛ばしたのか時折、いくつもがヒックリ返っていた。Photo:2013/09/16 @京都御苑、京都市

2013年9月20日金曜日

第五百三十九夜/公園で採れる秋の食材

 台風の大雨以降、秋のキノコにとって本格的なシーズンを向かえたようである。あちこちにキノコを見ることが出来る。モミジの幹から株で生えるこのキノコは、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea、少し食べ頃を過ぎているがこれかもどんどん根元からでてきそう。この株は、両手からたっぷりとはみ出る程の大きさ。 このキノコは、公園樹や街路樹に植えられているトウカエデや、ポプラ、ヤナギ類の枯れた部位に発生する腐朽菌。街中で採取できる食用キノコ。マツタケとは名に付くものの類縁でもないし、香りも違うが、こっちりとした食感が持ち味で和洋に限らず食材として優れている。でも御苑のものは採取できません。秋のキノコは元気だが、ツクツクボウシの鳴き声は少し頼りなげだ。Photo:2013/09/19  @京都御苑、京都市

2013年9月19日木曜日

第五百三十八夜/水が嫌いかトノサマバッタ

 ギンヤンマを観察していると近くにいたのがトノサマバッタ(Locusta migratoria。普段はこちらが動くとすぐに遠くに飛んで行ってしまうのだが、今日は違った。彼らは水っぽい場所が好きでないらしく、周りは台風の影響でびしょびしょになった畑なのでいったん飛んでも乾燥した場所に戻って来る。周りは背が高いヨシ原なので、そこに飛び込んでもよさそうだが、どうもそのような込み入った場所もお好みではないらしい。あぜ道や河原のような草地が彼らの生活の場である事がよく判る。Photo:2013/09/17 @西の湖、近江八幡市、滋賀県

2013年9月18日水曜日

第五百三十七夜/湿原に飛ぶギンヤンマ

 台風で西の湖のヨシ原が水浸しでいつも歩くところが水路とつながり、しかたなく眺めていると現れたのがギンヤンマ(Anax parthenope♂だった。湿原とタイトルに書いたが、湿原ではなく本当は畑である。 台風の大雨は収穫が終わった畑を湿原に変えてしまった。そこに縄張りをもつギンヤンマが何頭も飛んでいた。1頭が開放水面に持つ縄張りはせいぜい100m2(10m×10m)ぐらいだから、これだけの水面があればあまり縄張り争いも起こらない。飛んでいるトンボはオートフォーカスでは写せないので、マニュアルの望遠レンズ(300mm)を覗きながら、指先でピント合わせる。ほれぼれする飛びっぷりである。写真なんでどうでも良くなり、覗いているだけで時間が経つのも忘れてしまう。Photo:2013/09/17 @西の湖、近江八幡市、滋賀県

2013年9月17日火曜日

第五百三十六夜/濁流を耐える魚

 台風は去ったのだが、川は相変わらずの濁流が続いている。水位はすこし下がったものの流れの強さはさほど変わらない。山から流れ出る水にいつもながら驚く。ヌートリアなどの陸上に避難できる生きものはよいとしても魚達にとってこの増水はどうだろうか。その岸辺に魚の様子を見てみた、階段状の護岸には、沢山の小魚(ほとんどがオイカワ)が打ち上げられて死んでいた。そばにはサギの足跡が多く残っている。足跡の周りには魚があまり残っていない。きっとサギ達はこのごちそうを知っていて狙っていたのだろう。川の中を見ると打ち上げられた数をはるかに越す小魚がうじゃうじゃ泳いでいる。しかし、元気なものもタモ網があれば容易にすくえる状態、さらに傷つき、弱りふらふらになって泳いでいるものも少なくなかった。この状況からは魚と言えども台風の大水を耐えるのは容易ではない事が判る。しかも流れが直線の都市河川では、わんどや淵のような隠れ場所、避難場所も無い。川岸には、コサギとアオサギ達が胸の辺りをパンパンにふくらせて休んでいる。ずいぶんと食べたようだ。少し下流の緑地で子育てをしているコサギにとって1週間ほどは獲物に困らないだろう。
 このような増水を見ると想い出す。小学生の頃、大雨の後には必ず岸辺に魚が集まってくるを誰もが知っていて、友達と誘いあわせてタモ網を持って魚取りに出かけた。時々、カメやオオサンショウウオなんかもゲットできた。だから危ないと思いながらも魚取りに夢中になった、幸いにも誰一人として流れに落ちることはなかった。しかし子どもの耳には悲しい事故の情報が入らなかっただけで、きっとどこかで水難はあったのだろう。幸か不幸か、今ではそんな子どもの姿は無くなってしまった。Photo:2013/09/17 @鴨川、京都市

2013年9月16日月曜日

第五百三十五夜/見物人とヌートリア


 台風一過、川岸にはいつにもまして増水した鴨川を一目見ようと沢山の散歩の人・・・濁流の川面の写真を撮っている。この「物見遊山」的な行動は、のんきなことのようだが一種の本能にある「危険回避」のためのものであるらしい。(こんな流れに落ちるとヤバいぞ・・・と言う訳である)そんな川岸に数人の人が「何か」を見ていた。野次馬で行ってみると、そこには1匹のヌートリア(Myocastor coypusが草陰で昼寝中。その表情には、洪水にも余裕の感じすらある。さすがに水辺に暮らす野生動物(ただし特定外来生物)。さすがにと言えども、昨年の台風12号では一家離散してしまった・・・やはり基本的には湿地や止水が生活域であり流水域の生きものではないことが判る。見物人達からは「あれなに?」という会話がしきり、多くの人はよくテレビで見るカピバラと思っているよう。まあっ同じげっ歯目(ネズミ目)だから、長いシッポが隠れていれば判らない。Photo:2013/09/16 @荒神橋、京都市

過去のヌートリアの話題:
第三百五十七夜 2012年6月24日 
第二百四十七夜 2010年9月24日
第百八十二夜  2010年1月11日 

2013年9月13日金曜日

第五百三十四夜/その名もエゴノキタケ

 なんだかエゴノキの元気が無いなと、見上げると枝に不思議なモノを見つける。熱帯の海にあるノウサンゴの様にも、大きなカイガラムシにも見えるが、キノコである事は間違いない。早速、キノコの先生に名前を教えて頂く。エゴノキの枯れ木に好んで生える、エゴノキタケ(Daedaleopsis styracinaだった、日本固有のキノコ(カイガラタケの仲間)と言う。なんとも判りやすい名前である。このエゴノキの樹勢のなさは、このキノコが付くことが原因ではなく、エゴノキの上部には大きな木が枝葉を茂らせている。この日照条件がエゴノキには適さず、枯死にいたる。そこにやって来たのがエゴノキタケである。キノコの少し右には、ハチだろうか、カミキリムシだろうか、すでに穴を開けてしまっている。この木が完全に枯れるのは時間の問題である。枯れた木を早く土に戻し、他の植物が吸収できる養分とするためにキノコの役割がある。それまでの少しの間もさまざまな生きものの食べ物や巣として利用される。自然の生き物はすべてつながっている。僕が観たいのはその繋がりなのである。Photo:2013/09/10  @京都御苑、京都市

2013年9月12日木曜日

第五百三十三夜/謎解き・翅の巻

 少し前である、糞虫研究者のT先生からメールで一枚の写真が届いた「これは何か?」と言うものだった。ご自宅の近くに落ちていたとのこと。
 さてここから謎解きである。これは簡単だった。まず鱗粉が付いた薄い翅であるから、蝶や蛾の仲間である。次に大きさは判らないが、黒い色で赤い斑紋があると言う事は、「黒い色のアゲハチョウの仲間」である可能性が高い。よく見れば翅の下側がびりびりと破れているところに少し白い斑紋が見える。その横にはオレンジ色に黒い目玉模様。今の時期にこの特徴を持つ種は、モンキアゲハとナガサキアゲハ、いずれも大型の黒いアゲハチョウ。写真の翅の上の波打つ部分が翅縁である、この部分にオレンジ色の小さな紋、この特徴は「ナガサキアゲハの♀の後翅」、しかも翅脈の出方を見ると裏返っているようなのでこの翅は「右後翅」。つまり答えは「ナガサキアゲハの♀の右後翅」となる。
 これからはまったく想像、上が外側(翅の縁)、下が内側(体側)。翅の外側(縁部)が鳥等につつかれ破れている(生きている)個体は多く見かける。捕食者は、翅の後の目玉模様を狙ってくるのでここが破れていることは多い。しかしこの翅の様に縁部が残り体側がギザギザに破れていると言うことは、体自体をくわえられ食べる前に要らない翅をむしり取った結果と思う。一枚の翅からいろいろな情景が見えて来る。Photo:2013/09/06 @京都市

2013年9月11日水曜日

第五百三十二夜/クモを狩るハチ

 地面を忙しそうに歩き回る狩蜂の仲間、キオビベッコウ(Batozonellus annulatusこのハチはクモを見つけると背中に針を刺し麻痺させ、その後地面に巣穴を掘り、クモを落し込む。クモの体に卵を産み付けた後、巣穴をふさぐ。巣穴の中では卵からかえった幼虫が、生きた蜘蛛を食べて育つ。なんともクモにとっては、不幸中の幸か眠っている間に食べられてしまうというワケである。地面を歩き回っていたキオビベッコウは、時折立ち止まっては頭を地面に押し付けていた。きっと既にクモを狩ったあとで、巣穴を掘るのに適した場所を探しているようだった。Photo:2013/09/08 @栗東、滋賀県

2013年9月10日火曜日

第五百三十一夜/ハラビロカマキリ

 草むらでこちらの様子を伺うハラビロカマキリ(Hierodula patellifera。こちらが前を通り過ぎると、顔をこちらに向け目で追うような仕草をする。その様子からそうとうに目がよく見えているらしいことが判る。カマキリの仲間は、触覚を立てたり、ねかせたり、頭をぐるりと回したり、かしげたり、体をゆらゆらと動かしたり・・・昆虫の中では表情の豊かさはダントツだと思う。Photo:2013/09/10 @京都御苑、京都市

2013年9月9日月曜日

第五百三十夜/食痕、森の謎解き

 谷戸の先にある雑木林にて、コナラの切り株の上にカブトムシの残骸。前翅の数を数えるとちょうど3匹分、他に脚や頭もあった。全てお腹の部分が無い。前翅(堅翅)を見ると鳥のクチバシで刺したような痕跡がある。これは調理の時についた傷だろうか。森の誰かが食べた後であることは確かなようだ。近くの樹液に来ているカブトムシを獲り、この切り株の上で調理して食べたに違いない。他の切り株の上にも同じ状態の食痕があった。近くにはニホンザルのものらしき糞もあった。糞の中には木の実以外にコガネムシの緑色の翅も見える。時折、この森ではカケスを見かける。しかしサルを見たことは一度も無い。この食痕はカケスのものか、猿のものか、それとも他の動物のものか。動物達を直接見なくとも、彼らの残したメッセージは森のあらゆるところに隠されているに違いない。食痕、糞、体毛、足跡、そして体臭・・・昆虫なら小さな翅のかけら。森のなかで見つけるとなぜか嬉しくなる。小さなメッセージはパズルの一片の様なもので、これを見つけ組み立てる事でこの森の本当の姿が見えてくる。Photo:2013/09/08 @栗東、滋賀県

2013年9月8日日曜日

第五百二十九夜/樹液にやって来たオオスズメバチ

 里山の林縁のコナラ(樹液)に来ているオオスズメバチ(Vespa mandarinia。数頭が仲良く樹液を吸っている。写真を撮るために近づくが少し頭を上げ、こちらを見るだけで、樹液を吸うことに集中している。大勢で観察するとこんな事は出来ないが、一人だとハチが他方から飛来してもその羽音で気付く、樹液に来ているハチだけ注意すればいいので比較的安全。時折、互いに口移しで樹液を与えていた。このコナラの樹液に来ているのは、同じ巣の仲間だけなのでハチ同士のトラブルは起こらない。しばらく観察しているとコナラから巣に戻る飛行コースと、ここにやって来る飛行コースが違うのが興味深い。Photo:2013/09/08 @栗東市、滋賀県

2013年9月7日土曜日

第五百二十八夜/食事に向かうカブトムシ

 里山の路沿いにオオスズメバチの巣があり、頻繁にハチが出入りしていると言うので見に行った。行ってみるとそこにあったのは、ハチの巣では無く地面に近いところから樹液を出していた細いコナラだった。オオスズメバチ5頭、サトキマダラヒカゲ5頭、コクワガタ1頭、そしてカブトムシが3頭(♂2、♀1)が来ていた。念のためにスズメバチの様子を観察してみると樹液を吸ったハチは、ほぼ全て(巣のある)南の方角に飛び去るのだが、樹液にやってくる時は反対の(北側)方角からやってくる事が多かった。しかもダイレクトに樹液に到達するのではなく、近くの林縁に沿ってやって来る。なかなか興味深い。足元で何やらごそごそと音がすると、そこには今まさにカブトムシ(Trypoxylus dichotomaが樹液を求めて地面から這い出て来たばかりだった。カブトムシのシーズンもそろそろ終わりか。Photo:2013/09/07 @栗東市、滋賀県

2013年9月5日木曜日

第五百二十七夜/ムラサキツバメ蛹・続編

 先日のムラサキツバメの蛹はシャーレの底部に付いてしまったので、今回は新たに1頭の終齢幼虫を採取し、比較的自然状態と同じ環境に入れてみた。単純に食樹となる枝葉を立て、その下にいろいろな葉を敷き入れた。すると十分にマテバシイの葉を食べた終齢幼虫は半分枯れた葉に止り、そこで幼虫が作るのと同じ様に糸で葉を所々紡ぎ、筒状の巣を作り中で前蛹(上が頭)となった。前蛹となってもまだアリ達(キイロシリアゲアリ/フタフシアリ亜科)は幼虫が出す分泌液を求めて離れようとしない。幼虫だけでなくアリも同様に持ち帰り、その行動を見ることも大切。この幼虫は2日後に蛹に脱皮するだろう。おそらく自然状態でも同じ事が行われている。これでは屋外で蛹を見つけようにも見つからないはずである。Photo:2013/09/05 @京都市

2013年9月4日水曜日

第五百二十六夜/リボンを付けたイチモンジセセリ

 強雨が断続的に降った、風もふいた、落雷もあった。そんななか蝶達はどうしているのかなと見てみると、雨の合間に花にやって来ていた。そんな中、1頭のイチモンジセセリ(Parnara guttataをみつけた。頭にてっぺんにちょこんとのせた花粉の冠がなかなか似合っている。写真の個体は♀、花粉はムクゲ。Photo:2013/09/04 @京都市

2013年9月3日火曜日

第五百二十五夜/生還したヒラタクワガタ

 クワガタムシがやって来た・・・写真はヒラタクワガタ(Dorcus titanusの♂。彼が僕のところに初めてやって来たのは、7月23日、友人が子ども達のために獲って来たが余ったのでとのことだ。そして2日後、彼は飼育容器のなかで死んでしまった。死んだ時にあるように体の節部、脚も触覚もくたくたに延び、半ば硬直状態になっている。大アゴや脚をいじってもなんの反応もない。暑さのためか、かわいそうな事をした。半日ほどそのままにしておいたがやはりダメだった。
 そこで標本として残そうと考えた。汚れた体をアルコールで拭き、標本づくりに取りかかった。一般的に標本なら背中に針をさすが、僕はこの針が嫌いなので、針を刺さずにマチ針を使って展足(てんそく=脚を左右均等に揃えること)だけする。スタイロフォームの上にばっちりと展足し、大アゴも触覚もきれいに整え、そして乾燥のために涼しい場所に置いておいた。ところが朝起きてみるとマチ針がクワガタの形に並び、クワガタだけがこつ然と姿を消した。彼は完全に死んでいたのだから消えるはずが無かった。しかしクワガタが生返り、マチ針をすり抜け逃げたと思い込むより他無かった。まったく不思議だった。
 ところが友人がくれたのは、このクワガタだけではなかった、子ども達に人気のなかったカブトムシの雌も3頭いた。カブトムシは採卵をしようと飼育している。今日、そのカブトムシの飼育ケースの外側に1頭のクワガタが張り付いていた、ケースの中の手作り樹液の匂いに魅かれてやって来たらしい・・・さてどこから来たの? 
 つまみ上げると、見覚えのある個体だった。一月前にあの展足台から消えた彼だ。彼のここまでの旅を想像してみた。 
 深夜、彼は自由に動けない体に違和感を得た。幸いにも展足台が置かれた場所が風通しの良い場所で、しかも体を貫通する標本針が使われていなかった。蘇生した彼はマチ針の手かせ足かせを解き、本が積み重なった渓谷を彷徨い、電化製品のケーブル林を越え、家具下のホコリ原をくぐり、ようやく階段のところまでやって来た。ここでかすかに漂う樹液の香りを敏感な触覚が察知した。香りの中にはカブトムシの気配もする。ここからは楽だった、香りをたよりにグランドキャニオン階段を落ちる様に下り、カブトムシのところに辿り着いた。彼の体にはホコリがカビのようにまとわり付き、一月以上飲まず食わずで室内の隅々を徘徊していたことを物語る。まったく不思議である。自然の生き物の生命力に驚いた。Photo:2013/09/03 @京都市

2013年9月2日月曜日

第五百二十四夜/尾状突起

 蝶の後翅の一部に突出した部位を「尾状突起」と呼ぶ。例えばアゲハチョウの後翅に延びるあれである。その尾状突起はシジミチョウにも多い。もちろん翅縁がつるんとした尾状突起を持たない種もいる。ベニシジミ(Lycaena phlaeasもこの突起はあまり発達しない、ただし今日観たベニシジミは、尾状突起とまでは言わないまでも「角状突起」程度は言える突起があった。近くにいた別のベニシジミは、ここまで突起が発達していなかったから、この出っ張りはこの個体の形態的個性と言えそうだ。Photo:2013/09/02 @守山、滋賀県

2013年9月1日日曜日

第五百二十三夜/やむなく飼育、ムラサキツバメの蛹

 野外で昆虫の羽化のシーンを観察しようとしてもなかなか骨が折れる作業である。小さなシジミチョウともなると気が遠くなる、居所が判ってもまずタイミングが合わない・・・そこでどうするかと言えば、まず屋外で幼虫を探し、飼育し、蛹にして、羽化を待つのである。今回はムラサキツバメ(Narathura bazalus シジミチョウ科)の羽化シーンを見ようと思い、先日近くのフィールドから幼虫を1匹持ち帰った(写真上、背中にアリが集まっている、幼虫の下に見える2つの白点はふ化したあとの卵)。幼虫は元気に食樹(マテバシイ)の葉を食し、ようやく蛹に脱皮(蛹化)した。ムラサキツバメは蛹化する時に枝葉から地面近くに降り、樹皮や枯葉の中で蛹になる。同様に今回は飼育容器の底角で蛹化してしまった。仕方なく枯葉の上に移して写真を撮る。実際を知っている者にとって極めて不自然な蛹である。蛹は体長15mm、体幅7mm、体高5mmの「新ジャガ」のような体色である。蛹期は多分10〜12日程度、9月12日頃を羽化日と予想、体色の変化に注意すれば羽化を見逃す事は無い。楽しみである。もちろん成虫になればもとの場所に返す。きっとそこにも羽化したての個体が飛んでいるはずである。フィールドでの観察が大切であるが、飼育することでいくつかの興味深い事を発見することも出来る。Photo:2013/09/01 @黒谷、京都市