2009年2月27日金曜日

第六十九夜 道でシジュウカラを拾う


 自宅近くの路地で一羽のシジュウカラが死んでいた。羽やクチバシや脚に汚れたところも無く,とても美しい個体だった。健康な個体そのもののように思われた。死因は判らない(解剖すればだいたいの見当はつくのだが)が,建物の窓に追突したように思われた。路上から小鳥を拾い上げ,小鳥の軽さに驚き,そして手にした羽の美しさに見とれたのだった。すぐそばに小学校の道路脇花壇があったので植え込みの中においた。【2009/02/26】Photo:@京都市左京区岡崎

2009年2月24日火曜日

第六十八夜 冬のニホンミツバチ

 仕事の出張先で以前から観察をしているニホンミツバチの巣を見に行く。霊園の中にある一本のヒノキのウロに営巣して5年ほど経つ。人通りの多いところではないが,通常は危険と思われすぐに撤去されてしまう。そこで「ここに巣をつくるミツバチはニホンミツバチです。いたずらしないかぎり刺す事はありません。見守ってやって下さい。」と張り紙をした。実際にとてもおとなしく,この巣の写真を何度も撮った時も,巣の入口に止まっているハチを指で触った事も刺される事は無かった。(でも真似はしないでください)もちろんこの件は霊園管理事務所にも伝え,巣の保護をお願いした。効果があったのか一度の苦情も無く,撤去される事も無く営巣している。今日はその木のウロの下に一片の巣が落ちていた。拾い上げると一匹のニホンミツバチが止まっている。巣には冬の蓄えの蜜はなく,空っぽだったのでこのままで越冬出来るかは確かではないが,巣をウロの奥に入れておいた。暖かな日には梅花の蜜を求めて飛ぶと思う。もうすぐ春だ頑張れ。【2009/02/23】
Photo:2009/02/23 @谷中霊園,東京都台東区

2009年2月13日金曜日

第六十七夜/砂玉のまち



 熱帯雨林の森を後に街に戻る。砂浜に行くと無数の砂団子があった。直径5〜10mm程度。だいたい中心には砂団子の2倍ぐらいのサイズの穴がある。これはカニの巣穴だ。なぜ砂玉が出来るのか。これはカニが昼間に潮が引くと巣穴から砂をかき出しながら現れ、活動を始める。カニは掘り出した砂を団子状にして外に捨てる。これを繰り返したため、巣穴の周りには小さな砂団子が放射状に多数残される。よく見ると巣穴に近い砂団子ほど乾燥して,遠くのものほど湿っている。つまり穴に近い場所から砂団子を捨て始めるようだ。砂団子の間の通路には細かなカニの足跡が残っていた。砂団子の大きさの違いは,カニの大きさの違い。カニが運び出す砂団子を見ているとそれぞれの力関係も判るようだった。
カニは砂の中の有機物やプランクトンを鋏脚でつまんで口に入れ、食物を濾した残りの砂は口の上部に丸く固め、鋏脚で切り取って足元に捨てる。食べかすも砂団子になる。
体表の模様は砂浜に紛れる保護色となり、遠目には砂の塊が動いているようにも見える。砂面に目が慣れて来ると巣穴に逃げ込むカニが判る。中には他の個体の巣穴に逃げ込んで巣穴の主に追い出され、逃げまどうものもいる。歩くと地面に伝わる振動でカニが隠れなかなか見れないが,巣穴の横で動かずに待っていると数分で姿を現した。
砂団子をいくつかの巣穴に転がすと,それぞれいくつもいくつも転がり落ちていった。ただし,どの巣穴もいくつか入れたところでそれ以上は落ちなくなる。2つのシーンが想像できた。一つ目はまっすぐに掘られた穴も途中で横に曲がっている。二つ目は穴の途中にいるカニに砂団子が引っかかってしまった。どちらもカニにとっては迷惑な話しだ。
砂浜に広がる砂団子を見ていると,飛行機から見た時の住宅地や街のようでも,里山と谷戸地形のようでもあった。これがカニ達とっての街そのものなんだろうなと思った。ちなみにこの砂玉のまちは,満ち潮が来ると全てなくなり,引き潮になるとカニ達が再び同じ作業を繰り返す。【2009/02/13】

Photo(上):砂浜に広がる砂団子,飛行機から見る里山の地形に似ている。Photo(中):巣穴から放射状に広がる砂団子。Photo(下):静かに待っているとカニが姿を現した(コメツキガニの仲間と思う)。@Tanjung Aru, Kota Kinabalu, Malaysia. 2009/01/21

2009年2月12日木曜日

第六十六夜/タテハチョウの一種

 
 ブルネイの熱帯雨林の森で粘りにねばって撮れたタテハチョウの一種(Terinos clarissa ♂)。この蝶もなかなか止まらない,風の向きや光の方角を考え慎重に近づくがあと少しと言うところで必ず逃げられてしまった。しかも,決して遠くには逃げず,すぐに戻って来る。これにはなんとも悔しい。この機会を逃せばもう会えないかもしれない。こんな時はじたばた動かず,蝶が戻って来るのを待つ方が良い。そしてやってきたらゆっくり,時にはすばやく近づいて撮る。今回も最後はいつもの様に地面に腹這いになってなんとか撮れた。お腹の下にはアリの行列。これには近くで見ていたガイドも笑ってた。端から見れば面白いに違いない。【2009/02/12】
Photo(上):翅の裏はオレンジ色の地色に銀色の縞模様。Photo(下):翅を広げると全体は黒に近い濃紺色,後翅の一部に鮮やかなオレンジ色がきれいだった。翅には傷の一つもない,羽化したての個体のようだった。@Temburong River,Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月11日水曜日

第六十五夜/朽木に見つけた甲虫

 テレビで見る熱帯雨林には,非常にたくさんの生きものが映し出される。しかし実際に森を歩いてみると意外と昆虫には出会えないものである。今回,甲虫で一番大きかったものがこの朽木に止まる虫。名前は判らない,体長4.5cmぐらい,光沢のある体にオレンジ色の斑紋がきれいだった。これはオオキノコムシの仲間か。朽木に発生したオレンジ色の菌類を食べているようだった。つまみ上げてみると動きは鈍い,指先にかすかな臭みが残った。【2009/02/11】@Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月10日火曜日

第六十四夜/ウラナミジャノメの仲間

 森のテントの周りをしきりに飛び回っているウラナミジャノメ(ジャノメチョウの仲間)が一頭。写真を撮ろうと近づくと逃げられてしまう。そこでいつもの様に観察してみるとある一定の場所を回っている事が判った。お目当ては,葉っぱの上の水滴らしい。この手の仲間は,花になんか来ない。腐った果実なんかが大好物。このチョウを引きつけている葉っぱの水滴は何だろうか,葉っぱに止まりしきりに吸っていた。さて,このチョウの名前をガイドに聞いてみた。答えは「クプクプ」(マレー語で蝶の意味)。違うチョウの名前を聞いてみた。こちらも「クプクプ」。どのチョウもみんな「クプクプ」なのだ。つまり生活にあまり役に立たないものに関しては固有の名前はつかない。せいぜいついて「クプクプ・メラ」程度である。これは「赤いチョウ」の意味。翅が赤ければみんな「クプクプ・メラ」になってしまう。白い蝶の場合は「クプクプ・プティ」。そうだ唯一,彼らが知っている蝶の名前があった。現地で「Rajah Brooke's 」ラジャ・ブルックスと呼ばれる大型のアゲハチョウである。(学名:Trogonoptera brookiana 和名:アカエリトリバネアゲハ)名前は19世紀のマレイシア・サラワク王国初代白人藩王(ラージャ)だったジェームズ・ブルック卿に献名された学名より。ガイド達がこのアゲハチョウの名を知っているのは土産物売り場で展翅されたものが売っているからである。今回は3度,遠くを飛び去る姿を見た。【2009/02/09】

Photo:葉上の水滴を吸うウラナミジャノメの一種 @Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月8日日曜日

第六十三夜/電灯に来たハンミョウ

 夜の電灯にはいろいろな生きものが集る。昼間の森をどれだけ歩いても出会えない昆虫もやって来る。この夜,雨に中を電灯にやってきたのはハンミョウ(体長20mmぐらい)。英語では「Tiger beetle」と呼ばれる。素早く走り回り、獲物を捕まえる姿がネコ科の動物に似ていることからそう呼ばれるようになったらしい。灯火に来た個体は,日本のニワハンミョウに似るが翅の斑紋が赤い(日本のものは白い斑紋)。昼間の森を歩いても見る事はなかった。しかもこの一頭も写真を撮った後,どこかに飛び去ってしまった。熱帯の森に住む生きものは,種の多様性に富むが,その種毎の個体数はけっして多くはない。いつも一期一会なのだ,今度いつ会える? さて,気になる種名だが,東南アジアには500種類以上のハンミョウが分布しており,アフリカ、中米に並んでハンミョウの種類が多いエリアと言う。満足な図鑑はないので種名を知るにはかなり難しそうだが,会えただけで満足である。【2009/02/08】
Photo:電気にやってきたハンミョウの一種(種は不明) @Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月7日土曜日

第六十二夜/極細の脚のカワトンボ

 森の細流を歩くと川面にぴかりぴかりと金属的な緑色の昆虫が飛び逃げる。小さなカワトンボの仲間だが,どうしても写真に撮れない。そんな中やっと撮れたカワトンボの一枚。残念ながら先の金属色に輝くカワトンボではない,しかしなかなかきれいな姿をしている。熱帯の森の林縁は,太陽光の当たる場所と日陰との陰影のコントラストが強く,そんな環境の中を飛ばれると,本当に居場所が判らなくなる。マレイシアには,マレーバクと言うパンダ柄(白黒)のユニークなほ乳類がいる。動物園で見るとその体色で居場所がすぐに判ってしまうが,そのはっきりと分かれた白黒の体色も陰影の強い川岸の風景にまぎれると言う。だから白黒もりっぱな保護色なのだ。金属色の羽色を持つトンボも同じ。きらびやかな翅も止まっている時は黒く見え,飛び始めると川面には反射する陽光や水の流れにまぎれてしまう。【2009/02/07】
Photo:川岸に休むカワトンボの一種,緑色の体色に極細の脚がとても美しい @Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月6日金曜日

第六十一夜/食べて理解・熱帯魚のフライ

 森歩きのガイドが夕食を獲りに行こうと言う・・・といっても場所はテントのそばを流れる川である。道具は,釣針,オモリ,テグスである。餌はその辺りの地面を掘ればいくらでもいるミミズ。川岸から餌をつけた仕掛けを川に適当に投げ入れ,当りを待つ。今日は釣果が良くないらしい。連日の雨で川が濁り,水温も下がっているのが原因か。さすがのガイドの仕掛けにもなかなか当りがこない。粘りに粘り小一時間かかってなんとか自分の食いぶち分の魚をそれぞれ上げた,といってもみんな小物ばかり。釣果はオイカワのような銀色のきれいな魚1匹(20cmぐらい),小さなナマズ1匹,スパイニール(ウナギを平たくした様な魚=熱帯魚店で見た記憶がある)が数匹。僕は小ナマズと小スパイニール。そして最後に尺物スパイニールを落としてしまった。逃げたサカナは大きい。あげくのはて,大切な針を川底に引っ掻け,糸を切ってしまった。結局,時間も道具も失ってしまった。魚の写真を撮ろうと思い,小屋に戻ると既に時遅し,フライなって皿に盛られていた。熱帯魚店で人気のスパイニールは小骨が多く,しかもむちゃくちゃ硬く味なんてもんじゃなかった。釣れない,食えない,撮れないの三重苦だった。但しこの日の夕食は,シダ類の新芽(現地名:キパス,近くの草むらでいくらでも採れた)の炒め物に魚のフライ,そしてチキンカレーとご飯,けっこう多彩なメニュー。全て現地調達の食材だった。そんな訳で今夜は生きものならぬ「あげ物」の話しとなってしまった。生きものを知るためには食べてみる事も大切だ。【2009/02/05】
Photo:中央で姿をとどめているのがオイカワ形のサカナ,周りでバラバラになっているのがスパイニール。@Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月5日木曜日

第六十夜/夜活動するスズメバチ

 森の夜,近くの小屋でハチを見つける。ハチは一般的には昼行性なので気になった。日本のアシナガバチの様に寝てはいない。大きさは日本のアシナガバチを少し大きくした程度(体長25mmぐらい)。活動していたのでいたずらは止した,こんなところで刺されでもしたら大変。写真をもとに調べてみると「オオヤミスズメバチ(Provespa noctarna)」の仲間のようだ。夜行性のハチの特徴として,目が大きく,体の色が淡いなどの共通した特徴があるらしい。【2009/02/05】Photo:@Batang Duri. Brunei 2009/01/17

2009年2月4日水曜日

第五十九夜/アリとシロアリ

 熱帯雨林の夜は,想像以上に騒々しい。日本の森とはケタ違い。これも生物多様性の森のなせる技か。森の我が家・テントの中で横になっていると,すぐ脇から,時には遠くの森から,コオロギやキリギリス,セミ,カエル,鳥,鹿の声をはじめ,何かが地面の落葉を踏む音,川の音,高い樹々の葉に溜まった雨水が地面に落ちる音,などが夕暮れと共に夜明けまで止む事なく続いた。生きもの達の鳴き声は時間と共に内容が変わっていった。時々,近くのロングハウスから犬や鶏の声も聴こえる。朝起きてみると昨夜,ライトに集って来たシロアリ(羽蟻)を小さなアリ(体長3mmぐらい)が襲っていた。アリよりもはるかに大きなシロアリはすぐに逃げられそうに思うのだが,そうではなさそうで,次々に襲わればらばらにされて運ばれていた。【2009/02/04】Photo:小さなアリの集団に襲われた羽蟻(シロアリ)。@Batang Duri. Brunei 2009/01/17 

2009年2月3日火曜日

第五十八夜/蜜を吸う鳥

 ブルネイの街中の花灌木で小さな鳥が吸蜜していた。大きさは日本のメジロより一回り小さく,スリムにした感じ,湾曲した細いクチバシと三色の羽色が特徴。英名:Olive-Backed Sunbird  和名:キバラタイヨウチョウ 学名:Nectarinia jugularis . 英名では「背中のオリーブ色」を特徴として,和名では「腹部の黄色」を特徴としているのが面白い。でも実際は顔から胸にかけての光沢のある紺色と腹部の黄色が目立つ。花はIxora(和名:サンタンカ).【2009/02/03】Photo:@B.S.B, BRUNEI 2009/01/15