2013年9月3日火曜日

第五百二十五夜/生還したヒラタクワガタ

 クワガタムシがやって来た・・・写真はヒラタクワガタ(Dorcus titanusの♂。彼が僕のところに初めてやって来たのは、7月23日、友人が子ども達のために獲って来たが余ったのでとのことだ。そして2日後、彼は飼育容器のなかで死んでしまった。死んだ時にあるように体の節部、脚も触覚もくたくたに延び、半ば硬直状態になっている。大アゴや脚をいじってもなんの反応もない。暑さのためか、かわいそうな事をした。半日ほどそのままにしておいたがやはりダメだった。
 そこで標本として残そうと考えた。汚れた体をアルコールで拭き、標本づくりに取りかかった。一般的に標本なら背中に針をさすが、僕はこの針が嫌いなので、針を刺さずにマチ針を使って展足(てんそく=脚を左右均等に揃えること)だけする。スタイロフォームの上にばっちりと展足し、大アゴも触覚もきれいに整え、そして乾燥のために涼しい場所に置いておいた。ところが朝起きてみるとマチ針がクワガタの形に並び、クワガタだけがこつ然と姿を消した。彼は完全に死んでいたのだから消えるはずが無かった。しかしクワガタが生返り、マチ針をすり抜け逃げたと思い込むより他無かった。まったく不思議だった。
 ところが友人がくれたのは、このクワガタだけではなかった、子ども達に人気のなかったカブトムシの雌も3頭いた。カブトムシは採卵をしようと飼育している。今日、そのカブトムシの飼育ケースの外側に1頭のクワガタが張り付いていた、ケースの中の手作り樹液の匂いに魅かれてやって来たらしい・・・さてどこから来たの? 
 つまみ上げると、見覚えのある個体だった。一月前にあの展足台から消えた彼だ。彼のここまでの旅を想像してみた。 
 深夜、彼は自由に動けない体に違和感を得た。幸いにも展足台が置かれた場所が風通しの良い場所で、しかも体を貫通する標本針が使われていなかった。蘇生した彼はマチ針の手かせ足かせを解き、本が積み重なった渓谷を彷徨い、電化製品のケーブル林を越え、家具下のホコリ原をくぐり、ようやく階段のところまでやって来た。ここでかすかに漂う樹液の香りを敏感な触覚が察知した。香りの中にはカブトムシの気配もする。ここからは楽だった、香りをたよりにグランドキャニオン階段を落ちる様に下り、カブトムシのところに辿り着いた。彼の体にはホコリがカビのようにまとわり付き、一月以上飲まず食わずで室内の隅々を徘徊していたことを物語る。まったく不思議である。自然の生き物の生命力に驚いた。Photo:2013/09/03 @京都市

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