2008年9月7日日曜日

第七夜/南からやってきたツマグロヒョウモン




緑が消えると滅んでしまう生きものがいるなかで、街の中でも増える蝶がいる。アスファルト舗装の隅間に生えるカタバミを食草とするヤマトシジミ、街路樹のクスノキを食樹とするアオスジアゲハ、そして今日見つけたツマグロヒョウモン。この蝶は、黄色と黒色のまだらの美しいタテハチョウの仲間。名前の由来「ヒョウモン=豹紋」はこの蝶の仲間の特徴である翅の模様から、また「ツマグロ」とは雌の前翅の角部が黒くなっていることから。ヒョウモンチョウの仲間は北方系のものが多い中で、日本では唯一の南国生れの種。この蝶に初めて出会ったのは今から30数年前の夏休みのこと。道ばたで見慣れない蝶を見つけ、目を疑った。それは図鑑を見なくとも翅の特徴からすぐに種類は判った、元来は亜熱帯地域に棲む蝶、そんな蝶が飛んでいる・・。もちろんその時はどうすることもできずに蝶が飛び去るのを目で追うばかり。しかし翌年は、ラッキーなことに市内のあちこちで成虫を見つけ、幼虫まで採集することができた。南方系の蝶は時として台風などの風に乗り、本来の生息地から遠く離れた場所まで「迷蝶」としてやってくる。多分、この蝶も最初はそうだったに違いない。しかし自然のいたずらとは言え、これほど短期間に増えることは何か理由があるはず。競争相手がいないか、よほど環境に恵まれたか。これは幼虫を飼育してすぐに判った。飼育は非常に簡単で、スミレの仲間ならなんでも食べてくれた。庭に植えてあったパンジーもすっかり丸裸。食草が簡単に入手できたこともありこの時は、100頭程の幼虫を成虫まで無事育て上げることができた。蝶の食生活が都市の園芸ブームに支えられていることは確かだった。例えば公園や学校の花壇で、成虫は各種の花を蜜源、幼虫はパンジーを食草として利用できる。都市の温暖化と園芸ブームを追い風に、耐寒性の強い個体が北へ生息場所を延ばしていく。結果として少し前まで、珍しかった蝶だが今ではすっかり普通に見られるようになった、平成11年には長野県・伊那谷でも越冬する幼虫が確認された。考えるとその頃から都市の温暖化は確実に始まっていたのかも知れない。今日見つけた幼虫たちは、道路の端に生えている数株のスミレの葉を十数匹で食していた。この勢いだと後、数日もたないだろう。それまでにこの幼虫すべてが蛹になることは難しい。多くの幼虫は新しいスミレを求めて焼け付いたアスファルトの道を歩くのだろう。身をかがめて幼虫の視野で周りを眺めるとまったく緑もうかがえない。こんな僕たちの足下に広がる過酷な環境の中で生き延び、増えようとする昆虫に命のたくましさを感じる。今でもツマグロヒョウモンを見ると最初に出会った時のことを思い出す。特に印象的だったのが蛹の体、きれいな茶色の体に付く不思議な輝きの金色の斑紋にいつまでも見とれていた。彼らも「外来種」と言えるが、自らの力で勢力を延ばしてきた。世間で問題になっている外来種とは大きな違いだ。【2008/09/07】
Photo上:スミレを食べる幼虫、真っ黒な体にオレンジ色の線と棘状の突起を持つ。いかにも毒々しいルックスだか毒はない。おかげで誰も手を出さない。場所:烏丸丸太町
Photo中:♂の成虫、市内の園芸店の店先にて。
Photo下:♀の成虫、大通りに面したバス停横の花壇にて、花はアベリア。2008/09/18@京都市中京区

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