2008年9月9日火曜日

第八夜/名も知らないハエ

散歩の時に出会ったハエ。喫茶店でお茶を飲んでいると横の壁に止まった。僕の目も止まってしまった。なんとなく目も会ってしまった。なぜなら、ハエと一言でいってもその「口」が面白い形だったから。見れば見るほど不思議な形、実に独創的、しかも愛嬌がある。蝶の場合は螺旋のストロー状の口を持っている。このハエはストローをそのままくわえたままの感じ。どうしてこんな形に進化したのだろうか、どんな生活をしているのだろうか、なにも知らない。テレビでは今日も自然系の番組でいろいろな「他国の生きもの」を紹介している。それにも決して負けないと思った。ただこいつは「日本にいる地味なハエ」なだけ。このハエは、写真を一枚だけ撮らせてくれただけで飛び去ってしまった。もう少し見ていたかった。このハエを見つけたのは、ちょうど2年前の今頃、京都・銀閣寺の近くだった。それから二度と会えない。名前もまだ判らない。生きものってやっぱり不思議である。彼らは喫茶店で騒いでる人間を見て「不思議ないきものだな〜」って思ってるんだろうな。【2008/09/09】

追記:種名判明! 見る人に見て頂くとすぐ判った。「クチナガハリバエ(アシナガヤドリバエ亜科)」すぐに判るはずである、一属一種らしい。これはやはり変わってる。幼虫はコガネムシの幼虫に寄生する、成虫は花の密を吸うために口がこのようなストロー状に特化したようだ。調べるうちに、日本産ヤドリバエ科は現在約450種が記録されており、まだ未記載の種類が沢山ある、実際はその2倍は居るのではないかと言われている大きなグループだった。ハエも深いな〜。さて、次はどうやってこのハエがコガネムシの幼虫に寄生するのか知りたくなる。でもこの分野に足を踏み入れると大変なことになる。

2008年9月7日日曜日

第七夜/南からやってきたツマグロヒョウモン




緑が消えると滅んでしまう生きものがいるなかで、街の中でも増える蝶がいる。アスファルト舗装の隅間に生えるカタバミを食草とするヤマトシジミ、街路樹のクスノキを食樹とするアオスジアゲハ、そして今日見つけたツマグロヒョウモン。この蝶は、黄色と黒色のまだらの美しいタテハチョウの仲間。名前の由来「ヒョウモン=豹紋」はこの蝶の仲間の特徴である翅の模様から、また「ツマグロ」とは雌の前翅の角部が黒くなっていることから。ヒョウモンチョウの仲間は北方系のものが多い中で、日本では唯一の南国生れの種。この蝶に初めて出会ったのは今から30数年前の夏休みのこと。道ばたで見慣れない蝶を見つけ、目を疑った。それは図鑑を見なくとも翅の特徴からすぐに種類は判った、元来は亜熱帯地域に棲む蝶、そんな蝶が飛んでいる・・。もちろんその時はどうすることもできずに蝶が飛び去るのを目で追うばかり。しかし翌年は、ラッキーなことに市内のあちこちで成虫を見つけ、幼虫まで採集することができた。南方系の蝶は時として台風などの風に乗り、本来の生息地から遠く離れた場所まで「迷蝶」としてやってくる。多分、この蝶も最初はそうだったに違いない。しかし自然のいたずらとは言え、これほど短期間に増えることは何か理由があるはず。競争相手がいないか、よほど環境に恵まれたか。これは幼虫を飼育してすぐに判った。飼育は非常に簡単で、スミレの仲間ならなんでも食べてくれた。庭に植えてあったパンジーもすっかり丸裸。食草が簡単に入手できたこともありこの時は、100頭程の幼虫を成虫まで無事育て上げることができた。蝶の食生活が都市の園芸ブームに支えられていることは確かだった。例えば公園や学校の花壇で、成虫は各種の花を蜜源、幼虫はパンジーを食草として利用できる。都市の温暖化と園芸ブームを追い風に、耐寒性の強い個体が北へ生息場所を延ばしていく。結果として少し前まで、珍しかった蝶だが今ではすっかり普通に見られるようになった、平成11年には長野県・伊那谷でも越冬する幼虫が確認された。考えるとその頃から都市の温暖化は確実に始まっていたのかも知れない。今日見つけた幼虫たちは、道路の端に生えている数株のスミレの葉を十数匹で食していた。この勢いだと後、数日もたないだろう。それまでにこの幼虫すべてが蛹になることは難しい。多くの幼虫は新しいスミレを求めて焼け付いたアスファルトの道を歩くのだろう。身をかがめて幼虫の視野で周りを眺めるとまったく緑もうかがえない。こんな僕たちの足下に広がる過酷な環境の中で生き延び、増えようとする昆虫に命のたくましさを感じる。今でもツマグロヒョウモンを見ると最初に出会った時のことを思い出す。特に印象的だったのが蛹の体、きれいな茶色の体に付く不思議な輝きの金色の斑紋にいつまでも見とれていた。彼らも「外来種」と言えるが、自らの力で勢力を延ばしてきた。世間で問題になっている外来種とは大きな違いだ。【2008/09/07】
Photo上:スミレを食べる幼虫、真っ黒な体にオレンジ色の線と棘状の突起を持つ。いかにも毒々しいルックスだか毒はない。おかげで誰も手を出さない。場所:烏丸丸太町
Photo中:♂の成虫、市内の園芸店の店先にて。
Photo下:♀の成虫、大通りに面したバス停横の花壇にて、花はアベリア。2008/09/18@京都市中京区

2008年9月6日土曜日

第六夜/ルリタテハ

朝起きてみると黒いハギレ?大きなゴミ・・・?が天井に。久しぶりに見る蝶、ルリタテハ(タテハチョウの一種)だった。翅をみると結構痛んでいた。写真の蝶の翅の縁がギザギザなのはオリジナル。この蝶は小学生の頃、近くの墓地の境内周辺から幼虫を持ち帰りよく育てたのでお馴染み。幼虫時期はサルトリイバラとホトトギスを食べて育つ、どちらも山辺に生えるユリ科の植物。成虫は、花の蜜には来ずに熟し柿や樹液などにやってくる。翅裏はほとんど木肌か朽木とかわらない模様。いくら優れた保護色でも白い天井に止まっていると目立つ。彼らには似合わない場所だ。逆に翅表はと言うと止まっている時に瞬間的に見せる藍色と水色の帯がきれいだ。天井からそっと手のひらに囲むようにして捕らえる、庭に放すとすごい勢いで飛び去った。止まっている時は簡単に捕らえることができるが(もちろん捕虫網で)、飛んでいる時はなかなか捕らえることは難しい。もしこの蝶が休んでいる場面に出会って、その時、蝶があなたに驚いて飛び去っても、同じ場所に戻ってくる習性が有るので少し待てばもとの場所に止まってくれる。【2009/09/06】

2008年9月5日金曜日

第五夜/北へ向かえ〜旅するウスバキトンボ


街の芝生の広場や畑や水田など開けた緑地にトンボの群れが目立つようになってきた。ふわふわ(ゆるゆる?)と風に乗り飛び続けている。なかなか枝に止まらない。一見、赤とんぼ(アカネ)のようだがこれは、ウスバキトンボ(薄羽黄とんぼ)、分類上では別の仲間。寒さが苦手で関東あたりでも越冬ができない。そのため毎年、東南アジアから(約1ヶ月で成虫になれる成長を活かして)世代交代を繰り返しながら、風に乗ってどんどん北上していく。全トンボ類のなかでもっとも分布の広いといわれる種類。(特にお盆頃におびただしい数が発生するので「精霊トンボ」とも言われる。)毎年、南から命をつないで北に向って旅する、秋には逆に南に向って子孫を残すこと無く命を絶っていく、なんとも寂しい気がするがこの小さな昆虫の力に感動する。地球の温暖化に伴い越冬の地も北上し、ますます北に向うのだろう。かれら一匹一匹が自分の子孫を残そうする旅に気候変動が追い風となってきた。【2008/09/05】
Photo上:風に乗り飛び続けることに適した体の構造、体の割に大きな翅を持っている、体の割にきゃしゃな脚なので枝に止まるのも上面に止まらず重たそうにぶら下がっている。
Photo下:胸から腹(尾)にかけての模様はなんだか美しい虎皮のようだ。

2008年9月4日木曜日

第四夜/オオスズメバチ



ニュースを見ていると、「9月3日、新潟県小千谷市の寺が全焼・スズメバチの逆襲」とあった。原因は「住職がスズメバチの巣を焼き払おうとし、竹の棒の先に火を付け、寺の食堂の押し入れ内にあったスズメバチの巣を焼き払おうとした。しかし、スズメバチの逆襲に遭い、火が付いたままの棒をその場に投げ捨てて避難。その間に火が寺に燃え移った。」という。なんとも笑えない話だ。さてこのスズメバチ、身近な昆虫の中では圧倒的な力を持っている。あくまでも肉食(でも樹液は大好き)、破壊的で、防衛的で、見るからに恐ろしい。巣も地中から、崖、樹上、軒下、天井裏と雨をしのげる場所なら何処にでも造る。なるべく関りたくない、いや絶対に関りたくない。しかし、こんな昆虫も自然界の中で捕食者として他の昆虫が増えることを調整している。また死んだ後は、他の昆虫の栄養源ともなる。ここに正しい命の循環がある。一方、人間によって薬剤で個体群とその巣を破壊されることは、ハチにとって壊滅的なダメージを受けてしまう。このような形で自然のなかでの大きな役割を担っているハチが不在になることはどこかでバランスを失うことに他ならない。例えば、農作物に害を与える昆虫の増加などの影響が出ているはずである。やはり僕たちは蜂たちのことをもう少し知る必要がある。人間がいたずらに刺激しなければ、彼らだって決して攻撃することはないからだ。彼らも無駄な戦いは避けたい。なぜなら自然の中では成虫までなるのに大変なコストがかかっている、そのものを失うことは個体にとっても、群れにとっても大変に不経済な行為だからだ。彼らの戦いはあくまでも、食料を得るため、自分自身もしくは巣を守る時にだけにされる。
Photo上:草むらで餌を探す個体(オオスズメバチ)。飛んでいるときは空気抵抗を減らすために体に脚を密着させている、触覚(アンテナ)はピンと前方を向いている. なかなか愛嬌がある。
Photo下:死んでアリに運ばれる個体。よく見ると戦いに敗れたのか毒針が出たままだった。【2008/09/04】

2008年7月27日日曜日

第三夜/レモンにつくアゲハチョウの幼虫

庭のレモンの葉に小さな真珠のような卵がいくつもあった。やがて頭でっかちの小さな幼虫がいくつも孵化し、黒い体に一筋の白い模様を持つ幼虫は日ごとに大きくなった。幼虫の体色は鳥の糞の擬態。いよいよおなじみの緑色の幼虫に脱皮するかと楽しみにしていると、今度は次々といなくなってしまう。アシナガバチが頻繁にやってくるところを見ると、多分ハチに食べられてしまったのだろう。残念だが幼虫が無事に成虫になるには、1/100以下の低い確率しか無いと言われているから仕方ない。今年になってから幾度となく卵が産みつけられ、孵化してきたがまだ一頭も羽化するまで至っていない。
 以前にも同じことがあった。この時はたった一頭のクロアゲハの幼虫がかろうじて蛹にまで生き残った。しかし、この幼虫はいつも何匹の小さな寄生蜂にまとわりつかれていた。ある日、今まで鮮やかな緑色だった皮膚に数点の黒いしみがあるのに気づいた。しみは、寄生バチが幼虫の皮膚に産卵管を刺す時にできた傷跡だろうか。それから幾日かが経ち、幼虫は驚くほどよく歩き、水っぽく大きい糞をしていた。これは蛹になる準備。数日後、蛹は木から離れた場所で簡単に見つけることができた(昔、蝶々の飼育に明け暮れていたので、蛹の所在がなんとなく判るのだ)。さっそく蛹が体を固定している糸を注意深くはがし、観察しやすいように窓際に移した。蛹は触れるとよく動いたが、寄生蜂をいつも体につけ、皮膚に黒いしみを持った幼虫が無事成虫まで生き延びるにはまったく期待しなかった。予想通り蛹には羽化の兆候も現れなかった。ところが驚いたことにある日突然、羽化してしまった。気づいたのは時すでに遅し、成虫は飛び去った後。羽化をすっかりあきらめていた為、その兆候を見誤ったのだった。蝶は無事、成虫になった。この蝶の兄弟達はすべて、クモ、アシナガバチ、スズメに食べられてしまい、残されたこの個体も寄生蜂に完全にやられたと思い込んでいた。はたして寄生バチの卵が成長できなかったのかどうかは判らない。しかし、そんな幼虫が蛹まで生き延び、羽化したことは本当に驚きだった。まさに次の世代を托され、選ばれた一頭といえる。街の中の小さな庭でもたくさんの不思議に出会うものだなといつも思う。【2008/07/27】

2008年7月26日土曜日

第二夜/セグロアシナガバチ

庭仕事をしていると手元近くまでアシナガバチやって来る。特にレモン、バラやハーブ類の香りの強い枝葉を切ったすると頻繁にやってくる。これは枝葉を切ったりすることにより枝葉の切口(傷口)から空気中に物質(例えば樹液や香りなど)が発散されることが原因。虫達が植物の葉を食べる、するとその時も同じ物質が空気中を漂うことになる。アシナガバチは小さな虫を狩り主食としている。つまり植物が枝葉から出す物質が、アシナガバチにとって食べ物である虫の存在を知るための大切な手がかりとなるわけだ。いわば植物は周辺に物質を蒔くことで自分を食べる昆虫を退治してもらうためのSOS信号を出している。アシナガバチもむやみに飛んでいるわけでは無く、ましてや人を驚かすためにやって来るのではない。だからそんな時はけっして追い払ってはいけない。【2008/07/26】

2008年7月25日金曜日

第一夜/庭に来たオオシオカラトンボ


庭の木に一匹のトンボがやってきた。オオシオカラトンボの雌。時々、飛び立ったかと思うとすぐに元の枝に止まる。こんな動作を何度か見ているうちに、前脚でなにやら掴んで戻ってきた。大きなハエを捕らえたようだ。前脚を器用に使ってハエを食べている。すっかり食べ終わったトンボは、今度はその前脚を複眼の後ろ、ちょうど人の首にあたる部分に器用に折り畳んだ。だから枝に止まっている時は、4本脚に見える。前脚は獲物を捕らえるための大切な道具と言わんばかりである。しかし、他のトンボではこんなことはせず、ちゃんと6本の脚で止まっているのである。【2008年7月25日】
PHOTO上:大きなハエを前脚で捕らえ、暴れるハエを頭からむしゃむしゃ食べる。PHOTO下:食事後は丹念に口で前脚をきれいにした後、複眼の後ろ(首の部分)に折りたたむようにしまった。満足そうだ。トンボの頭ほどの大きなハエが一匹丸ごと入ったとは思えない。(写真はいずれもオオシオカラトンボ♂)