2009年1月30日金曜日

第五十六夜/森の民・イバン


  ブルネイの森歩きの案内は,現地先住民イバン族にお願いした。彼らは熱帯雨林の民で,生活そのものを森に依存している。樹木から安全な飲料水を採る方法,数あるヤシからどの葉が屋根材に適切か,森歩きでお腹が減ったら何を食べるか,腹痛やケガをした時の手当の草はどれか,森に生育するラタン(籐:ヤシの一種)にも毒があるものもある・・などなど,驚くほどの情報と知識である。どうやってそれを知ったのか・覚えたのかと尋ねた。答えは,森を歩きながら親から全て教わったと言う。代々,何百年,何千年もの時間と経験を経て実証されたものだ。方や森の中で生活に必要な植物(有用植物)を効率よく得るために守り・残してきた。彼らと森を歩くと手つかずと思われていた熱帯の森も実は人との関わりで今に至っている事が判る。まさに彼らは生物多様性の森の一員と言える。他の野生動物との大きな違いは,火を使う事,刃物を使う事である。ボルネオ島に住む伝統的な先住民族はイバン族はじめ共通しロングハウス*1と呼ばれる共同住宅・村の形態を持っている。彼らは、基本的に小規模な農耕(焼き畑)と狩猟・採集生活をしているが、最近貨幣経済の浸透が見られ、商品作物の栽培や、都市への出稼ぎによる現金収入を求め生活形態が徐々に変わってきた。現在では僕の様な観光客・研究者のガイドや手工芸品販売(土産物用)により現金収入を得ている者も少なくない。
 熱帯の森歩きでは,日本の森の様な道標や地図はない,道も不確か(細流も立派な道になる),ボートによる移動が必要,樹木が高くて見通しが利かない,地形が複雑,時には仕掛け矢(狩猟用ワナ,ワナの存在は「印」があるが僕たちには判らない)もある・・・などなど結構大変。そこで効率よく,かつ安全に歩くには,現地住人にガイドをお願いするほかにない。【2009/01/30】
Photo(上):森への移動はまず川から始まる。幅75cm,長さ7〜9mほどの細長い船(ロングボート)に船外機をつけて驚くほどの渓流を遡る。水深が浅くなったり小滝が現れると船をみんなで引っ張り上げる場面も出て来る。激しい使用に耐えるために側板と底板の材質(使用する木の種類)が異なる。Photo(中):森の中でヤシの葉を使った屋根材の作り方を実演。Photo(下):森を歩くとパラン(山刀,ナタ)で道を塞ぐ倒木などを伐る必要がある。かなり太い枝も一断ち,大細工も小細工もこれ一本。そこで彼らは休み時間も河原から砥石を探し刃の手入れを怠らない。鋭いパランはイバンの男のプライドそのもの。@Batang Duri. Brunei 2009/01/16

*1 ロングハウス:高床式長屋状の家屋で,個々の部屋の前に大きな共有スペースを持つ。五世帯程度の小規模のものから何十メートルにも及ぶ大規模のものまで,まさにロングハウスである。柱は丸太もしくは角材の掘立柱,床や壁は竹が利用される。床にはラタンで編んだゴザが敷かれる。屋根はかつてはヤシ葉葺きだったが今ではトタン葺きが多い。一つのロングハウスには,必ず一人の「長(おさ)」がいる。森に入る場合は,このロングハウスの「長」への挨拶から始まる。

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