2009年1月24日土曜日

第五十夜/マングローブに生きるテングザル



 五十夜の今夜は海外編。最近,テレビでもお目にかかることの多いテングザルの話し。テングザルは,世界中でもボルネオ島のマングローブ林だけに生息する大型のサル(ボルネオ島固有種),雄が天狗のように長い鼻をもつために和名ではテングザルと呼ばれる(テングのようにピンと立っていないのでむしろ「釣りバカ日誌のスーさん」に似ている),英名はProboscis Monkey(大きな鼻のサル)。さてこのサルとの最初の出会いは僕がマレイシアに暮らしていた約20年前のこと。休暇を取っての旅行中,マングローブ林にそった道をバイクで走っていた時に突然,草むらから飛出した犬のような動物が僕の膝のあたりにぶつかってしまった。バイクの転倒は免れたが,一方,犬らしみものは草むらにひっくり返ってしまった。幸い両者ケガはなかったが大変に驚いた(こんな経験はもうできないだろうな)。草むらからマングローブの林に逃げていった姿を見てその生きものがテングザルと判った。湿地に広がる林には20〜30頭の群れが見えた。当時,このサルはさほどテレビでも紹介されていなかった。今ではボルネオ島のマングローブ林や湿地林の急速な消滅で、絶滅の危機に直面している。現在8,000頭を下回ったとも言われている。今回,このサルに会いに行ってきた。訪れた場所はボルネオ島の小国・ブルネイ王国。ブルネイは,産油国であるために森林伐採に依存する事なく経済が豊であったために熱帯雨林や海岸から河川にかけて広がるマングローブ林や湿地林が比較的良く残っている。首都の町からボートで20分程度でテングザルの生息地にアプローチ出来た(マレイシアでは少なくとも数時間の移動が必要)。現地旅行社のエコツアーに参加すれば簡単だがべらぼうに費用が高い(約120ブルネイドル=B$),しかも他の参加者がいるとこちらが行きたい場所・留まりたい時間が制限される。ユックリとサルを見るためには,ツアーは利用出来ない。まずは桟橋に行ってボートのチャーター交渉をする事から始まった。テングザルの活動時間が主に朝夕に限られるために,かれらの活動時間前には生息場所に達していて静かに待つ必要があった。お昼を食べて桟橋に行くと何人もの水上タクシードライバーが声をかけて来る(水上村=カンポン・アイルが広範囲にあるので小型のボートが移動手段として発達している)。その中からこちらの条件に合うボートを探す。チェックポイントは,1)サルの居場所をちゃんと知っているか,2)値段は妥当か,3)こちらの要望を理解しているか,など。その中に屋根付きのボート(海の上で待つので日差しが欲しい)のトミー氏と35B$で交渉成立の握手。彼はサルの生息地をよく知っているようで,もし見れなかったら10B$返すと言う。人柄も良さそうでこちらの要望も良く理解してくれた。まだまだ強い日差しの午後2時,マングローブ林にボートを進めた。サルが出そうな場所,また休息中のサルの群れを探した。しばらくして遠くの木に腰掛けるサルを発見。ボートをマングローブの中に滑り込ませ,エンジンを切り,サルの移動を待つ。午後2時半頃になるとサルが徐々に移動を始めた。日射しによって出来た陰影の強い木立の中に休む個体はなかなか見つけられない。しかし,コツが判るとだんだんとサルの存在がよく見えるようになってくる。意外に近くにいたりなんかする。10頭程度の小さな群れだが,メスザルや子ザルが水面上高さ10m程度の枝を移動してきた。そして移動する群れの最後を守るかのように大きな雄ザルが現れた。雄ザルはこちらの様子を伺い,水平に張り出した枝に座った。ちょうど20mほどの距離。雄ザルはこちらを頭上から見下ろしている。赤ら顔に大きな鼻,大きなお腹(肉厚なマングローブの葉や新芽,実を主食としており,その消化のために腸が発達している),長い手足,長い尾,そして変わった毛色。声も聞く事が出来た,「キャッキャッ」と鳴くメスや子どもに対して雄は,「ブグーッ」と言う低いおナラのような声を出した。観察するにはこれ以上の条件は見当たらない。双眼鏡で観察,写真を撮る。しばらく経つと,なんと雄ザルのまぶたがおりてしまった。どうも昼寝の続きのようだった,面白いのは枝から落ちないように長い前後の脚を枝にかけている,時々,首が「がっくと」落ちる。まったく人間と変わらない。寝顔はマングローブの木陰の風を受けて大変に気持良さそうだ。徐々にこちらも眠たくなってくる。両者ほとんど昼寝状態。30分以上もそんな状態が続いた。こちらもそろそろ次なる場所に移動しようかと準備していると,気配を感じてか彼も目を覚まし再び群れに加わっていった。ガイドのトミー氏もこれには興奮気味,こんなラッキーな状態はあまりないらしい。ツアーの様に見ようと焦ってはいけない,写真を撮ろうと焦ってもいけない,まずはサルと同じ気分になる事が大切。さて,しばらくボートを進めると今度は,樹木が生い茂った岸辺に2.0m以上の大きなワニが甲羅干し。こちらは写真は撮れず残念。逆に大きなワニの瞬時の動きに驚いた。その後,20頭以上のサルの群れも見る事が出来た。4時を過ぎるとテングザルを売り物にするエコツアーボートが増えてきた。こうなるとサルの行動が活発になり見やすくなったとしても,見学者が増え,ボートがゆれて,暗くなって来るので写真を撮る条件は悪くなる。さっさと町に帰る事にする。トミー氏の招待で自宅=水上ハウス(柱が水底に立てられた家,床の下は水面。水道,電気はきている。但し下水は下の海に。水上ハウスはとても快適)に行き,奥さん手製のお菓子で少し遅いAFTERNOON TEA を過ごした。トミー氏には約束のボート代35B$に加えてお茶代の御礼にプラス5B$の40B$を支払う。今回はとても短い体験だがテングザルと共に味わったマングローブの木陰での時間は最高に幸せだった。【2009/01/24】
Photo:上/湾内から河口にかけて生育するマングローブ林:東南アジアのマングローブ林は良質の炭(備長炭)生産,エビの養殖,埋め立てなどで急速に消滅している,
Photo:下/昼寝をするテングザル(♂)
@B.S.B, BRUNEI 2009/01/17

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