2008年7月27日日曜日

第三夜/レモンにつくアゲハチョウの幼虫

庭のレモンの葉に小さな真珠のような卵がいくつもあった。やがて頭でっかちの小さな幼虫がいくつも孵化し、黒い体に一筋の白い模様を持つ幼虫は日ごとに大きくなった。幼虫の体色は鳥の糞の擬態。いよいよおなじみの緑色の幼虫に脱皮するかと楽しみにしていると、今度は次々といなくなってしまう。アシナガバチが頻繁にやってくるところを見ると、多分ハチに食べられてしまったのだろう。残念だが幼虫が無事に成虫になるには、1/100以下の低い確率しか無いと言われているから仕方ない。今年になってから幾度となく卵が産みつけられ、孵化してきたがまだ一頭も羽化するまで至っていない。
 以前にも同じことがあった。この時はたった一頭のクロアゲハの幼虫がかろうじて蛹にまで生き残った。しかし、この幼虫はいつも何匹の小さな寄生蜂にまとわりつかれていた。ある日、今まで鮮やかな緑色だった皮膚に数点の黒いしみがあるのに気づいた。しみは、寄生バチが幼虫の皮膚に産卵管を刺す時にできた傷跡だろうか。それから幾日かが経ち、幼虫は驚くほどよく歩き、水っぽく大きい糞をしていた。これは蛹になる準備。数日後、蛹は木から離れた場所で簡単に見つけることができた(昔、蝶々の飼育に明け暮れていたので、蛹の所在がなんとなく判るのだ)。さっそく蛹が体を固定している糸を注意深くはがし、観察しやすいように窓際に移した。蛹は触れるとよく動いたが、寄生蜂をいつも体につけ、皮膚に黒いしみを持った幼虫が無事成虫まで生き延びるにはまったく期待しなかった。予想通り蛹には羽化の兆候も現れなかった。ところが驚いたことにある日突然、羽化してしまった。気づいたのは時すでに遅し、成虫は飛び去った後。羽化をすっかりあきらめていた為、その兆候を見誤ったのだった。蝶は無事、成虫になった。この蝶の兄弟達はすべて、クモ、アシナガバチ、スズメに食べられてしまい、残されたこの個体も寄生蜂に完全にやられたと思い込んでいた。はたして寄生バチの卵が成長できなかったのかどうかは判らない。しかし、そんな幼虫が蛹まで生き延び、羽化したことは本当に驚きだった。まさに次の世代を托され、選ばれた一頭といえる。街の中の小さな庭でもたくさんの不思議に出会うものだなといつも思う。【2008/07/27】

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